題詠100首百人一首

題詠100首百人一首


001:初(足知)
マフラーを髪にも巻いた寒がりのあなたを胸に仕舞った初冬
002:幸(新藤ゆゆ)
おたまじゃくしをすくうみたいに幸せな指のかたちに折りまげてみる
003:細(ちょろ玉)
黒板を君はメガネをかけて見る 僕は細めた目で君を見る
004:まさか(五十嵐きよみ)
ポケットの右には「まさか」左には「やはり」が同じ重さでひそむ
005:姿 (香澄知穂)
あてもなく君の姿を探す街スカイツリーの蒼い影立つ
006:困(月原真幸)
困ったら誰かにつながってるはずの小指の先を握って隠す
007:耕(浅草大将)
耕して拓く楽土の夢さへも荒れ野の果てに伯父は眠れる
008:下手(鮎美)
花束を抱へて下手袖に待つ少女にあはく舞台のひかり
009:寒(新田瑛)
働いてはじめての冬寒冷地手当で買った赤い手袋
010:駆(北爪沙苗)
沈黙のをとこはかなしも子としてのわれもかなしく駆け抜けるのみ
011:ゲーム(星川郁乃)
ゼロサムのゲームなんだね 思いきり甘くして焼くジンジャーケーキ
012:堅(みずき)
帯紐の堅さに凛と伸ばす背 春のうららを踏みて祇王寺
013:故(生田亜々子)
何故なんて言わせやしない目の前で潰す真っ赤な絵の具のチューブ
014:残(小倉るい)
残りたる家に「解体OK」の赤ペンキあり5月の宮古
015:とりあえず(はこべ)
とりあえず手袋はめてコート着る 選びかねたる散歩のコース
016:絹(小夜こなた)
桜色の絹のストールなびかせて自粛ムードの春を闊歩す
017:失(牛 隆佑)
僕もまた誰かにとっての失ったものでありえて宙を漂う
018:準備(雑食)
お別れを告げる準備はあなたからもらった紅を引けば整う
019:層(揚巻)
再生の鐘鳴りやまずかなしみのどの層位にも浮かぶ小夜曲
020:幻(酒井景二朗)
幻のごとき命か日だまりにしづまる墓に酒を注ぎつ
021:洗(水風抱月)
洗い髪梳かせば黒き一条の悔恨絡め嗤う指先
022:でたらめ(音波)
くだらない話をしようでたらめな歌をうたおう陽が照っている
023:蜂 (さくらこ)
最初から選ばれてなどいなかった 女王蜂にはなれない未来
024:謝(今泉洋子)
駅伝の中継カメラが映しをり拝観謝絶の古都の寺院を
025:ミステリー(miki)
一日中メガネはカギは探しもの ミニミステリーあふれる我が家
026:震(理阿弥)
水面にて羽震わせる蛾を深く沈める指に波動さみしい
027:水(黒崎聡美)
ぬるい水を口に含んだ そういえば今日は誰とも話していない
028:説(行方祐美)
足ゆびの冷ゆるひと日は何故かピカレスク小説読みたくてならぬ
029:公式(みち。)
ととのった公式みたいな恋をして解答用紙を火あぶりにする
030:遅(廣田)
あの日から違う世界を刻んでる五分遅れのあなたの時計
031:電(星桔梗)
電線に連なる鳥の淋しさをついばむように朝陽がのぼる
032:町(夏実麦太朗)
市は町をのみこんでゆき何ひとつ昨日と変わることのない空
033:奇跡(はせがわゆづ)
てのひらにたしかな奇跡をあたためてポケットでつなぐ夕暮れの帰路
034:掃(梅田啓子)
すじ雲の天女のころもに見ゆる日はゆうべの紅きはなびらを掃く
035:罪(晴流奏)
真っ直ぐな君の視線は罪作り僕の本音も知らない癖に
036:暑(中村成志)
昼つかた蟻には蟻の蔭おちて暑中お見舞い申し上げます
037:ポーズ(紗都子)
三日月のポーズで高く伸びゆけば真夏の空にふれるゆびさき
038:抱(三沢左右)
モノクロの写真の中で銃を抱く姿は遠く影を投げ出す
039:庭(西中眞二郎)
中庭の楓も既に紅葉してビルの谷間も秋はたけなわ
040:伝(原田 町)
のっぺらぼうの伝説ありしこの街にのっぺらぼうなビル立ち並ぶ
041:さっぱり (モヨ子)
夏草に似てさっぱりとした君とシャツを購う今日の名残に
042:至(南雲流水)
急行に乗り継ぐ人を見送れば風が流れる夏至のホームへ
043:寿(いちこ)
冷静な別れ話の延長に値段表記のなき寿司を食む
044:護(藤野唯)
だめなひとばかりを好きになるのだと気付く誰にも護られぬ午後
045:幼稚(穂ノ木芽央)
幼稚園バスのトーマスさみしげに最後の子どもを降ろしゆく春
046:奏 (鳥羽省三)
奏鳴は寂として果つ午後八時サントリーホールしはぶきの満つ
047:態(東雲の月)
酔った目の嬌態左に抱き寄せて鈍き指輪の閃きを知る
048:束(まるちゃん2323)
後ろ手に花束隠し君を待つ一人芝居の台詞探して
049:方法(千束)
皆同じ制服まとい息継ぎの方法さえも知らなかった日々
050:酒(おおみはじめ)
ハバネラのたゆたう午後のけだるさのアルハンブラの葡萄酒の門
051:漕 (T-T)
真っ白なシャツを帆にして自転車を漕ぐ君の背がとけ込む夕焼け
052:芯(久哲)
尺と言う古い単位に包まれて花火の芯で眠る夏色
053:なう(湯山昌樹)
旨そうなうなぎのにおいさせていた店も跡継ぎなくて閉じたり
054:丼(砺波 湊)
丼の底にはちいさな龍二頭 互いの尾の先追いかけている
055:虚(飯田彩乃)
帰らざる日々を思へば八月の日付は淡き虚数で記す
056:摘(保武池警部補)
遠しあの夕白籠に摘む実食み陸奥に木枯らし冬の足音
057:ライバル(不動哲平)
ライバルのつもりでいたと告白す さん付けで呼ぶかつての友に
058:帆(オリーブ)
少年の白いTシャツ風はらみ帆船となる夏の自転車
059:騒(アンタレス
静かなる海に人恋う夕暮れの砂浜に座し潮騒を聴く
060:直(伊倉ほたる)
嘘つきにも馬鹿正直にもなれなくてバジルをちぎる白いキッチン
061:有無(るいぼす)
冷蔵庫の中の調整豆乳の有無を気にする土曜日の朝
062:墓(村木美月)
かなしいをちゃんと形にできたからお墓の前で笑ってみせる
063:丈(こはぎ)
膝上の慣れない丈を気にしつつ君を笑顔にしたいスカート
064:おやつ(きたぱらあさみ)
ひとりです おやつを我慢しなくてもいいし昼まで寝ていてもいい
065:羽(ひぐらしひなつ)
羽ばたきの呼ぶさざなみがひかりつつまた翳りつつ秋をふるわす
066:豚(佐藤紀子
 故里の夏には父母が使ひゐき豚の形のピンクの蚊遣り
067:励 (草間環)
励ましの言葉飛び交う列島に背をむけている猫背のわたし
068:コットン(空音)
いい人の振りなんてもうするものか裂くように脱ぐコットンのシャツ
069:箸(新井蜜)
悔やまれること思ひだし箸を置く時報の後のニュース聞きつつ
070:介(猫丘ひこ乃)
介護する吾の腕(かいな)は母の背の震えにまじる寂しさも抱く
071:謡 (うたのはこ)
どこからか途切れ途切れの歌謡曲屋台のフォーにライムを搾る
072:汚(奈良絵里子)
うわばきの汚れることが嫌だった 小学校の避難訓練
073:自然(詩月めぐ)
最後まで素直になれず不自然な笑顔で君に告げるさよなら
074:刃(吾妻誠一)
シェーバーの型番のメモ取り出して替刃を探す閉店間際
075:朱(横雲)
白梅の散りかかりたる朱唇佛手合わす君に梅散りかかる
076:ツリー(南野耕平)
育ちゆくスカイツリーの天辺に立てば未来が見えるでしょうか
077:狂 (南葦太)
まだ君の夏の帽子は出っぱなし壁の時計は狂いっぱなし
078:卵(ほたる)
ゆで卵つるりとむける幸運を今日の証と思う朝食
079:雑(ウクレレ
絞られた形のままで雑巾は乾いて夢を抱き続ける
080:結婚 (tafots)
お互いの結婚式に呼べるほど仲良しのまま別れましょうか
081:配(桑原憂太郎)
プリントを配る動作も担任の物真似をする一つとなりぬ
082:万(砂乃)
万感の思いを込めて見つめれば娘が振り向く卒業の朝
083:溝(夏樹かのこ)
側溝の桔梗一輪あでやかに冴えて少女が自転車を駆る
084:総(ネコノカナエ)
総持寺」と御詠歌に聴き掃除する祖父をおもった幼い夏の日
085:フルーツ(津野)
籠盛りのフルーツの色は鮮やかに白き部屋には白きカーテン
086:貴 (藤田美香)
安売りのボンボンチョコと缶コーヒー貴婦人みたいなため息をつく
087:閉(牧童)
閉された想い朽ち果て歳月の砂塵のなかに舞う忍冬(すいかずら
088:湧(青野ことり)
目覚めれば秋はにわかに湧きあがり金木犀の香りで満ちる
089:成(野州
横町の坂を下ればオデオン座おおかた成人映画掛けいし
090:そもそも(富田林薫)
そもそもと切り出した後の静寂のコーヒーカップにかすか秋色
091:債(睡蓮。)
欧州の債務の話いつのまにボジョレヌーボー価格の話
092:念(コバライチ*キコ)
念仏を唱うる僧の広き背に西日の影が伸びて這いおり
093:迫(小林ちい)
早足で高ニの終りが迫り来る言葉にならない不安を連れて
094:裂(龍翔)
引き裂かれ弾けて飛んで転がったボタンの穴が君を見ている
095:遠慮(ワンコ山田)
ためらいと遠慮のまじる送信が遠いどこかで鳴らす着信
096:取(香村かな)
取得した資格の数と同じだけ諦めてきた恋もあるから
097:毎(船坂圭之介)
夜毎夜毎夢に顕つ(たつ)影遠くして亡妻(つま)かあらずかわが迷ひ居り
098:味(螢子)
たったひとつほめられた味だしまきが得意料理となった冬の日
099:惑(紫苑)
未だ視えぬ「詠ふこころ」に惑う吾の闇にやさしきリルケの手紙
100:完(葵の助)
完結はしない彼らの人生は連載小説終わった後も