大阪の乱(スペース・マガジン1月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。


         [愚想管見] 大阪の乱       西中眞二郎


 大阪府知事大阪市長の選挙で、松井さんと橋下さんが圧勝した。ご承知の通り、橋下さんは府知事を任期途中で退任して市長に鞍替えし、松井さんがその後任の府知事の座に坐ったものである。橋下さんと大阪維新の会にとっては、まさに我が世の春だろう。
 任期途中の鞍替え自体は合法的なものではあるが、任期途中で退任して自分に同調する人を後任に推すという手法は、一般的に言えばかなり異例なことには相違あるまい。また、地方自治体において、知事と議会との間にある種の緊張関係が生じることは、自然な姿だと思われるが、橋下さんは大阪維新の会によって、議会の面でも府と市のリーダーシップを握ることに見事に成功した。橋下さんのリーダーシップとカリスマ性、そして行動力には脱帽するしかあるまい。
 

 しかし、それだけに橋下さんには大きな不安を感じる。以上に書いたようなこれまでの行動もそうだし、独裁肯定とでも言うべき彼の言動等々、その姿勢には不安要素が大きい。また、彼の政策にも疑問点が多い。教育や職員に関する基本条例は、国旗国歌の強制をはじめ、法律の枠からはみ出したとも思われる強権的な内容を多く含んだもののようである。教員や公務員がことなかれ主義になって萎縮してしまうことも危惧される。
 いわゆる「大阪都構想」に関しても、疑問点が多い。以前から大阪は府と市の折り合いが悪く、「不幸せ(府市あわせ)」という言葉が示すようにいろいろな問題はあるようだが、大阪市の人口は大阪府の人口の30%に過ぎない。県内最大の都市の人口のシェアを見ると、東京都の68%を別格として、最大都市が30%を超えるシェアを持っている道府県は23に及び、大阪市は決して突出した存在ではない。これらの県と市が何とか折合いをつけて施策を進めているのだとすれば、少なくとも数字の上で見る限り、大阪の問題は構造的な制度の問題ではなく、大阪固有の運用の問題のように思われてならない。


 さまざまなタイプの首長があることは当然だが、私が腑に落ちないのは、大阪府民や市民は、橋下さんの主張や政策をどのように理解して、彼をリーダーとして選んだのかということだ。現在の閉塞感の強い世相、とりわけ首都圏の一極集中傾向の中にあって、過去の栄光の記憶を持つ大阪府民や市民がより強い閉塞感を抱き、中央や既成の権力に対する強い反発を有しているのだろうということは想像できる。しかし、独裁者を肯定するような選択が、府民や市民にとって、特に橋下さんの支持層と思われる若い世代にとって、幸せな未来につながるのかどうかには、疑問を抱かざるを得ない。新しい権力者たちが、選挙の結果を白紙委任だと思い上ることなく、謙虚に施策に取り組むことを期待するとともに、中央政界が今回の選挙結果に安易に振り回されることのないよう念願するところだ。

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 早いもので、この欄を持たせて頂いて8回目の新年を迎えます。去年は日立市や周辺地域の皆様にとってもいろいろ大変な年だったと思いますが、新しい年が皆様にとって良い年となりますよう、心からお祈り致します。(スペース・マガジン1月号所収)