題詠2012選歌集(その2)

             選歌集・その2

001:今(71〜96)
(ちゃこ)いつもです。それでいいのです。バスは今朝も三分遅れで到着しました。
(五十嵐きよみ)行儀よく並んだ五十音表をばらばらにして今うたいだす
(蓮野 唯)愛してと告げる勇気を今一度持てないままで寝たふりをする
(田丸まひる)これ以上さびしい顔ができるなら、できるなら今、見せてあげたい
(あひる)頂に沈む夕日はとどまりて富士の稜線今しきわだつ
003:散(52〜76)
(横雲) 霜柱光溶け行く庭陰に山茶花の紅散り敷きてあり
007:驚(1〜33)
(富田林薫) 驚きの白さにほんのたわむれてシーツをたたむ日曜の午後
(ありくし)月だけは見えると歌う盲人の話を驚きもせずに聞く
008:深(1〜29)
(夏実麦太朗) 深炒りの缶コーヒーを選ぶなら少しはやさしくなれるだろうか
(みずき)深大寺そこから先は見えぬ貌(かほ)夢まぼろしと消えし初恋
(ミカノ) 眠る子の深く沈んでいくようで 何度も寝息確かめている
(太田槙子)暗闇を溶かして空を朝にする白の深さに支配されてる
009:程(1〜30)
(秋月あまね)音程は1オクターブ違ってもおんなじ曲で歩いてゆける
010:カード(1〜29)
(紫苑)カード引く指に力の籠もりきて幼なき目より笑ひ消へたり
(みずき)カード切る女は白きユトリロの世界に棲むや春の雨降る
(ひじり純子) 添えられたカードの文字に癖がある カタログ通りの薔薇の花束
011:揃(1〜26)
(こはぎ) お揃いの雑貨手に取りまた戻し別々になる日ばかり思う
(紫苑)不揃ひの小鉢に似たり差し向かひ黙して過ぐすひと日の終はり
(しま)不揃いでいいと思った青だけがいつも短いクレヨンの色
(みずき) 晩秋と思へど揃へし白菊の切り口寒く鉢に盛りたる
(空音)窓の無い小さな部屋で重ね合う不揃いな愛に脚を絡める
012:眉(1〜27)
(夏実麦太朗)ロッカーの鏡のなかにひとりきり眉の角度を確かめている
(映子)おでこ眉鼻唇とくっつけて   キミと一緒の 今日がはじまる
013:逆(1〜25)
(平和也)朝ごとの冷えの逆らいがたさゆえ十五分間先送りする
(シュンイチ) 「逆上がりできなかったね」会うたびにおんなじ話ばかりしている
(葵の助) 「逆さまの町なら暮らしやすそうだ」少女がくるり鉄棒おりる
014:偉(1〜25)
(葵の助) ミスをして平謝りした帰り道青信号までやけに偉そう