題詠2012選歌集(その3)

        選歌集・その3

002:隣(59〜84)
(原田 町)近隣に介護施設の増えゆけば下り坂なる人生も良し
(蓮野 唯) 主たる貴方の隣立つために騎士道という言い訳をする
004:果(40〜64)
(コバライチ*キコ)無花果を祖母がもぎたる秋の日の夕陽まぶしき記憶残れり
(さとうはな)身のうちにためらひはあり ひとふさの果実分け合ごとき出会ひに
005:点(35〜61)
(梅田啓子) ふるさとの点景として今もあり駅前をゆく皮膚を病む犬
(酒井景二朗)春乍ら寒い御堂に點された火の數々はただ直ぐに立つ
006:時代(28〜53)
(廣珍堂)ますらをの 使ひし品も 土のなか 平安時代の 発掘終へる
007: 驚(34〜60)
(東 徹也)人生に驚いたような寝顔です海馬は記憶を処理せず眠る
(熊野ぱく)驚きを隠すフリして微笑んだ口角の先しめすそらごと
(飯田彩乃)驚きはさざ波のごとく広まりて同じ場所より静まってゆく
008:深(30〜54)
(ゆら) 物語のなかだけにある救出を諦められない深く抱き合う
(粉粧楼)深海魚みたいな色の目を開き底だけを見る終わらぬ夜に
(小夜こなた)深爪を繰りかえす君の指先を包んでつくる蕾のかたち
010:カード(30〜54)
(はこべ) このカード使うタイミングはかりつつ顔色さぐるゲームのたのし
(太田槙子)捨てられる為に発行されているポイントカードみたいな恋だ
(星和佐方)図書カードのピーターラビット包みゆく本屋のバイトのにほひをまとひ
015:図書(1〜25)
(みずき)図書室をひかりが奔り少年は黙す指(および)を透かしつつ読む
(ひじり純子) 課題図書読んで書いてる感想文みたいに見える君からのメール
016:力(1〜27)
(みずき)力まずに過ごす日日なれ 人生を賭けた遠い日思ふ晩春
(蓮野 唯)引き寄せて奪う魔力に込められた貴方の愛に縛られて酔う
(空音) 二の腕に手形の痣が残ってる男の子って力が強い
(粉粧楼) 重力という運命に抗わず君へと堕ちる夜の底見る
017:従(1〜25)
(ほたる) 服従はトーストにぬる蜂蜜のぬぐいきれない怠惰な甘さ
(みずき)従へぬ理由の間(あひ)を降る雨が睫毛を濡らす海いろの玻璃
(横雲) 木蓮を下に従え咲く辛夷(こぶし)空の青きに君来るを待つ