題詠2012選歌集(その4)

選歌集・その4

003:散(77〜103)
(わたつみいさな)散らかったおもちゃのように待ちわびる春っていつからはじまりますか
(田丸まひる)幾千の星を素肌に散らせても選ばれないと知る冬の夜
004:果(65〜91)
ましろ子)いつまでも果てない夢はくすぶれど手に乗るサイズの幸せがすき
(いまがみまがみ)体中の真水に鳥が来ればいい 記憶の果てに水差しを置く
(穂ノ木芽央)成果主義に食ひつぶされしわかものが非常階段あゆむ真夜中
(わたつみいさな) 果たされた約束ごとにいつまでも縛られているほそい傷あと
005:点(62〜87)
(五十嵐きよみ) 何もかも濁点だらけにしたくなる今日の私のとがった心
(飯田彩乃) 知らぬ間に肩の上にいた濁点を夜の空へと放ってやった
(寒竹茄子夫)寒燈の点る窓辺に霜響く夜となりぬればチェホフ読み継ぐ
009:程(31〜58)
(小夜こなた)程々のしあわせがいい悲しみも程々に通り過ぎていくから
(tafots) 鳰鳥のふたり並んで見届ける 喰われた月の満ちゆく過程
(佐藤満八)程々がいつの間にだかほどほどでなくなっていく恋のはじまり
(五十嵐きよみ) 楡の木に歌を教えている風の今日は安定しない音程
011:揃(27〜51)
(粉粧楼)思い出の軌跡つむいで重ねても夜の深さはいつも不揃い
(芳立)をしどりにみえぬ夫妻がくちばしを揃へてなじるわが独り身を
(酒井景二朗) 春の花一揃ひ咲く頃迄に暗い日記を片付けようか
012:眉(28〜52)
(ありくし)早梅の風は眉毛に柔らかく昨日交わした嘘も忘れる
(ちゃこ) 本日は 締め切りよりも 会議よりも 作り損ねた 眉が気になる
018:希(1〜25)
(平和也) コーヒーにしては希薄な液体が注ぎ出される夜のファミレス
(夏実麦太朗) 希望とは姿を変えてひそむもの中学校の校歌のなかに
(しま)夢のまま夢でいたいという夢を「希望」と書いた 翼を添えた
(蓮野 唯)絶望と言う鎖より尚重い希望と言う名の届かぬ願い
019:そっくり(1〜28)
(夏実麦太朗)真夜中にのむ酒よろしするめいかコンロの上にそっくりかえる
(紫苑) ひとの子とそつくりに鳴く野良一匹見捨てもならず餌を運びをり
(みずき)過去の恋そしてけふ又そつくりな恋に落ちたる木漏れ日のなか
(新井蜜) 知つてゐる朝はまだ来ぬこの部屋はしらない夜にそつくりだから
020:劇(1〜26)
(夏実麦太朗)何気ない寸劇みたいな毎日で良いんじゃないかと自分に言った
(しま)劇場の裏を歩けば猫がいてそのまま逆に流れる時間
(こはぎ) 劇的なおしまいなんて無いのだとメール履歴を彷徨う夜更け
(みずき)惨劇をまざまざと見し三月の脳(なづき)真白く震へし記憶
(葵の助)ありふれた子らとの日々を呟けば140字の寸劇だらけ
021:示(1〜25)
(黒木うめ) 匿名の掲示板には今日もまた誰かのいのち晒されていて
(浅草大将) (回文にて詠める) 止せ自縛なさけと人の道示し魑魅の問ひ解けさなくば死せよ
(みずき)迷ひゐし我が道示す光あり モネの睡蓮あをく見つめぬ
(横雲) 散る花は君の示せる情(こころ)かと辛夷(こぶし)の空を仰ぎ見てをり