題詠2012選歌集(その5)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して8年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


       選歌集・その5

001:今(97〜121)
(螢子) 風花が舞ふ空の色写しとる心に今も君は住みたり
(村田馨) 気動車が静かに宙(そら)を通り過ぐ今は新しき餘部橋梁 
(流川透明) 明日よりも大切なのは今だから自分のために紅茶を淹れる
002:隣(85〜109)
(田丸まひる) あのバスが隣の町を通過する頃にはどうか忘れてほしい
(わたつみいさな) 行く先を決めかねているホームにて隣のひとに風が吹いてる
(紗都子) 春隣ねむるあなたの睫毛からこぼれるものをやさしく舐める
(もふ) 隣りあう人を笑わせ日曜の仕事の憂さを晴らす夕方
(RIN)隣人の眠りをずしりと肩に受け今日(けふ)を寄せ合ふ夜の数駅 
(水風抱月)凍てゆるむ夜風へ梅香揺らし居り冷たきひとの隣家にも春
006:時代(54〜78)
(飯田彩乃)あかんべえの舌すこしずつ乾かして時代の風が吹き抜けてゆく
(猫丘ひこ乃)B&Bと書かれたトレーナー時代も仕舞う気持ちでたたむ
(コバライチ*キコ) 京の町雅びな衣裳纏いゆく時代祭を風が追い越す
(高島津諦) 時代という得体の知れぬまとまりが生きてた人を呑み干してゆく
008:深(55〜81)
(佐藤満八)しんしんと私の心に降り積もるあなたのいない今年の深雪
(高島津諦) もう足のつかない深みに来ていると貴方を深く受け入れた夜
(五十嵐きよみ)一行の詩を綴りゆけ深々と大地に杭を打ち込むように
(たつかわ梨凰)深海の砂探りたる夢うつつ目無き魚は自由に泳げり
眞露) 雪深き越後の里に踊り子の あしあと辿る朝の静けさ
013:逆(26〜50)
(はこべ)逆説がとおって今は正論となってしまった不思議な話し
(ゆら)棘があるから美しいと微笑(え)む人の逆悪までを愛しむ闇夜(あんや)
(芳立) はじめての逆あがりから青空へ翔りつづける天人五衰
015:図書(26〜50)
(粉粧楼) 手に添わぬ感触を持つ価値観は推薦図書の姿して来る
ましろ子)放課後のあの子のいない図書室で盗み見ていた貸し出しカード
(熊野ぱく)平日の仕事の合間図書館のソファーで眠る夢を見ていた
022:突然(1〜25)
(ほたる)あすの朝生まれ変われるものならば突然変異で蝶になりたい
(浅草大将)世が世なら俺も人間機関車と煙突然にたばこを吹かす
023:必(1〜28)
(こはぎ) 必然としておきたくて偶然の寄せ集めたる運命のひと
(遥)必然の出会いと別れ繰り返し我が手にはただひとひらの詩(うた)
(東 徹也)生きている限り必ず来る終幕星は黙って吾を見ている
024:玩(1〜26)
(夏実麦太朗) 地場産の間伐材でつくられた玩具あふれる ああ、道の駅
(ほたる) 人形をころがしながら玩ぶ仔猫はビー玉の目をもっている
(みずき) 姉さまと玩具競ひしあの日まで戻す記憶の螺子が捲けない
(横雲)君が手は馬酔木(あせび)の花を手折るかに優しく愛でて髪弄ぶ
26:シャワー(1〜25)
(薫智)シャワー浴び声を殺して泣いていた終わった恋も流し続けて
(黒木うめ) 花柄のシャワーカーテンあの青い花の名前を君は知らない
(浅草大将) 春雨やふるきいはれは人知れずライシャワー館ひそと立ちたり
(蓮野 唯) シャワーなど浴びるなと言い背を向ける貴方の誘いに乗ってみようか
(横雲)惑(まど)ひつもシャワールームの音消えぬ桜並木の見下ろせる夜
(しま)びしょぬれのセーラー服の思い出が旅を始める真夏のシャワー
(ひじり純子) ジーンズとリュックサックの軽井沢ライスシャワーに混じる若き日