題詠2012選歌集(その7)

      選歌集・その7 


001:今(122〜146)
(ネコノカナエ) 生きていることの言い訳繰り返しわたしは今日もみず菜を茹でる
(如月綾)午前2時過ぎに「今から逢いたい」と言い出すような奴に惚れてる
(詩月めぐ) 冷える指包んでくれる君といる今夜の雪はほんのり甘い
006:時代(79〜103)
(湯山昌樹)何となくすべてを時代のせいにされ変わる世界を呆然と見る
(こすぎ)ぐったりと時代の波に流されて子守唄なら聞き厭きている
(稲生あきら) いつの日か「そんな時代もあったね」と笑って済ますおつもりですか?
(わたつみいさな)振り向けば数多の栞が挟まれてそれを時代と人は呼びます
009:程(59〜83)
(寒竹茄子夫) おぼつかなき旅程を地図に辿りゐて素泊りの舎(や)に青き白梅
(原田 町)博士課程おえし息子の職無しと友の言葉に聞き入るばかり
(さとうはな) 春雨に満たされる宵音程が外れたままのピアノと眠る
011:揃(52〜76)
(星和佐方)前髪を切り揃へたる心地なり上句を「なり」で切りたる歌は
(寒竹茄子夫)みはるかす山脈(やまなみ)揃ふ積乱雲しづかに湧けばひとりゐる午後
(五十嵐きよみ) 上下巻揃うまで待つことにして窓辺にそっと置くアーヴィング
(槐)縁先に揃えし靴に花散りて二人の春の宵の更け行く
012:眉(53〜80)
(寒竹茄子夫)眉根寄せ寒の小蠅(さばへ)を凝視(みつ)めゐる青年ひとり厨に残し
(流川透明) 笑わない眉毛に一つ愛を乗せそのままだっていいさと笑う
(五十嵐きよみ) あやふやな気持ちを抱えた朝に見る左右の眉のかたちの違い
(さとうはな)木漏れ日が綾なす椅子に向き合いて眉うつくしき人と思えり
(槐)潤む眼の眉根に寄する夢うつつ哀しき恋の想ひ重ねむ
(穂ノ木芽央)モナ・リザの眉間の奥の光線が静かに満たす春の地下室
(湯山昌樹) 眉上げて教師の言葉に逆らいて十四歳の冬に悩めり
(梅田啓子)皇后の眉のあわいのつらなりのややふくらみてほほえまれたり
018:希(26〜50)
(ひじり純子)樹木希林漢字変換不確かで不安な夢の続きのようで
(アンタレス) ロスタイム限りの知らぬ時ありて小さき希望今日も継ぎゆく
(熊野ぱく)ふるさとを出る時抱いた希望など見つからなかった都会の路上
019:そっくり(29〜53)
(庭鳥)そっくりな建物続く次々と入居が進む公営団
(廣珍堂) 花街を そっくり残す 保存地区 道ゆく女(ひと)に 足跡もなく
(佐藤満八) 吾が子とは「スタンプみたいにそっくりね。」なんて言われて笑む昼下がり
020:劇(27〜51)
(アンタレス)願えども観る事のなき劇場の歌舞伎テレビで心入れみる
(畠山拓郎) 端々に教育的な配慮あり今日も観ている劇団富山
(熊野ぱく)人生という名の喜劇観るはずが悲劇の主人公を演じる
031:大人(1〜25)
(黒木うめ) 大人には大人の事情があるのだとヒトの死なない戦争映画
(みずき)大人しい女の明日は優しくてあさつてに泣く白き冬薔薇
(こはぎ)憧れた大人は未だ遠すぎてお砂糖二本入れたカフェオレ
(蓮野 唯)大人しくしていろと言い一瞥もくれない貴方の心が欲しい
(もふ)やまあいの大人造湖水涸れてたちあらわれる古き学び舎
(葵の助)大人って何でも分かると思ってた虹に放(ほう)った飴の行方も
032:詰(1〜25)
(ほたる)問い詰めてもらいたかったこともある 君のやさしい残酷が好き
(映子) アナタとの 愛いっぱいに詰め込んで   ハートの形にしたはずなのに
(みずき) 思ひ詰め春怨といふ寂しさに海とほく見る三月の青
(横雲) 覚めやらず詰まらぬ嘘を繰り返し別れを伸ばす花陰の夢
(しま)空っぽの小瓶にはまだ夢があり詰め込むことをしばしためらう
(ありくし) カラフルを詰め込んでいく空箱がざわつきだした瞬間に春
(はこべ)カバンには夢と不安を詰め込んできょう旅にでます一人たびです