題詠2012選歌集(その8)

            選歌集・その8


002:隣(110〜134)
(槐) 寄り添ひて甘えて拗ねて触れあひて隣りあはせの嫉みを隠す
(磯野カヅオ) 参拝の長き行列見渡せばなべて隣に連れ伴へり
003:散(104〜130)
(紗都子)散髪を済ませたあとの少年の首すじ細く闇に浮きたつ
(村田馨)せせらぎに散りたる一葉ながれゆく御蔭小橋に人佇まず
004:果(92〜116)
(紗都子)果樹であることを証明できるまで偏西風にこの身をさらす
(磯野カヅオ)春浅し灯油18リットルをたつた5日で使ひ果たせり
005:点(88〜112)
(紗都子) 絵画なら点描が好きぽつぽつと閉じこめてゆく真実のいろ
(希屋の浦) 点描を打つかのような憂鬱な時間が始まる休日の朝
(田丸まひる) 点描の海からすくい上げられて色づいていくわたしのすべて
013:逆(51〜75)
(流川透明)逆鱗に触れていいよと手を伸ばし彼女は僕のしっぽを握る
(風乃茉琴) 逆引きの辞典を読んで眠る夜は決まってアリスの夢を視ている
(太田槙子) 放課後も出来ないままの逆上がり蹴り上げる空晴れてて困る
(ぽたぽん) その弱み逆手にとってわたしだけの武器にしていく菜の花の道
033:滝(1〜27)
(平和也)山道を分け入るほどにいやまさる冷気に滝の近づくを知る
(横雲)偲ぶるは夜の三春の滝桜今年の春は如何に咲くらむ
034:聞(1〜27)
(紫苑)胸板のうすきを指になぞりつつ聞き負ふことのかくも重かり
(遥) 人づてに聞いた話を楽しげに語る横顔少女に返る
(ひじり純子)新聞の投書欄には今日もまた変わり映えしない古い正義感
(はこべ)聞香を愉しんでおり秋の午後「小鳥香」とう声もくわえて
(たつかわ梨凰)朝の陽を昨日の新聞紙に包み花の静かな葬儀を終える
035:むしろ(1〜26)
(平和也)赤面は前触れもなくあらわれて一人で針のむしろに座る
(みずき) 近くよりむしろ遠くで感じたきダリの絵かかる壁のうす闇
(蓮野 唯)先に逝くよりむしろ見送るをせめてと願い一人佇む
(東 徹也) 一人よりむしろ二人でいる孤独世界と同じあなたが薄い
(粉粧楼)色の無い夢は次々閉じてゆきむしろこれから夜は始まる
(たつかわ梨凰)慰めのつもりならむしろ咲かぬまま風を見つけて消えよ白薔薇
038:的(1〜25)
(横雲) 海棠に吾を喩えし目的を君言はぬまま笑ひて帰る
(みずき)身のうちを劇情的とふ鬼奔る青ざむ月のひかりが怖い
(しま)心にも光と影が交差して旋律的な春を奏でる
(たつかわ梨凰) もうずっと夜空に的は見つからず我は哀しき地上の射手座
039:蹴(1〜25)
(紫苑) 吹く風に紅き蹴出しのほの見えて春の川面にさざなみ渡る
(シュンイチ)どこにでも死がころがっているような惑星ひとつ蹴りあげてみる
(浅草大将) ひがし山蹴上の坂をのぼりつつ路面電車のうなりは重し
(ほたる) 蹴とばした空き缶がころがりゆく先を見ているような失恋だった
(ひじり純子)悩みなき人生なんてあるものか 小石を蹴って空を見上げる