題詠2012選歌集(その11)

選歌集・その11


010:カード(81〜105)
(さとうはな) 空色のポストカードの片隅の子犬にきみの名を名付けたり
ひぐらしひなつ) カードキー挿せばしずかに回りだすふたり行方のない冬の夜
018:希(51〜75)
(酒井景二朗)黒板に昨日書かれた字のやうにかすれた希望夕日に晒す
(湯山昌樹) 被災地に希望はあるか あるならば子供らの歌の中にあるべし
(コバライチ*キコ)はしゃぎ声上げつつ幼ら待ちており希望が丘団地行きのバス停
(津野)抱かれても声を上げない人形の類い希なる青い眼差し
023:必(29〜54)
(芳立)千年後ここで必ず会はうねと伝へたくなる雪のふる森
024:玩(27〜51)
(はこべ)幼子はごみ箱の紙とりだして玩具にしておりただひたすらに
(熊野ぱく) 土産屋で機嫌良かった赤鬼が泣いて右手に玩具を握る
(椋) 君の文散りばめられた言の葉に 玩ばれる春近き夜
025:触(27〜51)
(流川透明) 泣いている私の頬に触れた手の優しい嘘にまた泣かされる
(たつかわ梨凰) 幸せの手触りだけを教えつつ通り過ぎゆく春の潮風
(槐) 触れあひて身を寄す春の夜の更けて悶えし肌に花影の揺る
026:シャワー(26〜50)
(はこべ)シャワーあび外出準備整える選びかねおるマフラーの色
(芳立) 二度高いシャワーを浴びてあきらめの悪さがたぎる土曜日の朝
(流川透明) 足元に溜まったあぶくシャワーでは流しきれない罪にまみれて
(飯田彩乃) 今日はとくに傷つきやすいひとのため柔らかく降る真冬のシャワー
(槐) 小さき灯に点し替へたる気配あり心急かれてシャワーを止(と)めぬ
027:損(26〜50)
(粉粧楼) 幾千の夜の扉は開かれず増えるばかりの夢の欠損
(古屋賢一)損をしたわけじゃないのに曇ってる津軽は俺の頭の中で
028:脂(26〜50)
(はこべ) 告げられし高脂血症その正体読みあさりおるネットと本と
(円) 花潰しスカーフ染めて女生徒は風に揺れてる色、臙脂色
(槐) 君去りて残るもいとし紅脂の香(か)火影ほそやぎ庵(いほ)虚ろなり
052:世話(1〜25)
(みずき) 為尽くした世話の哀しも逝く姑(はは)のまくら灯揺らし春の雨降る
(ケンイチ) 愛犬の世話を焼いてるあどけなききみが笑へばやはらかな春
053:渋(1〜25)
(平和也) 栗の実の渋皮剥けず殻割れば白身崩れる手先恨めし
(シュンイチ)さよならをさがす旅路をはじめよう 悲しみ行き交う渋谷駅から
(横雲)お見合ひを疎み渋るをいぶかれる母の瞳に百日紅さるすべり)揺る
(紫苑) せはしなき人並みに取り残されぬ夜の渋谷のスクランブルに
(浅草大将) 信濃なる渋の出で湯の石だたみ行き交ふ下駄に春の足おと
(葵の助)唇の記憶がよみがえった朝答えのように紅茶が渋い