題詠2012選歌集(その15)

              選歌集・その15

002:隣(135〜159)
(希) 隣家にも灯りがともる頃だろう暮れゆくまちにカーテンを引く
(黒崎聡美) それぞれの領域保ち隣りあうかろやかに笑むファッション雑誌
佐藤紀子) 隣よりうちの芝生を気にせよと子に言ひ孫に言ひ自分にも言ふ
021:示(53〜78)
(希) カーナビの周辺地図が示す道曲がれば「春はもうすぐそこです」
(五十嵐きよみ) 嬉しさをうまく態度で示せずに笑いさざめく輪の外にいる
022:突然(51〜76)
(希) 突然でないことだけは知っていて雨に打たれている木曜日
(コバライチ*キコ)突然に幕がひかれてただ独り取り残されし夢に戸惑う
(廣田) 突然に雨の途絶えるその夜に街のはずれの蛹が孵る
(梅田啓子)突然の雨に濡れたるおみな子の肌はアーモンドの匂いする
031:大人(26〜50)
(粉粧楼) 本日の痛みはたぶん大人用なみだは甘く苦しく香る
(高島津諦) 大人びた子だと言われた十八年 子供っぽいと言われるその後
(芳立) ぬけがらの影絵がふたつ寄りそへば大人の恋になるはずだつた
032:詰(26〜50)
(円)君無しの白い光を浴びたくてまだ何一つ詰め込めぬ部屋
(希) 缶詰の桃をふたりで分けあって有事の愛を考えている
033:滝(28〜52)
(ケンイチ)ちひさなるわれらを震はす胎動の滝(フォス)幾輪の虹飾つつ
(tafots) 石走る滝を見るため下りゆくエレベーターの中の静寂
035:むしろ(27〜51)
(佐竹弓彦)虚無的と言うならむしろ秋の日の体重計の上の沈黙
(椋) 怪我よりも揃いのカップ片方を 無くしたことがむしろ悲しく
064:志(1〜25)
(ほたる)恋人でも友達でもなく大好きな自由自在な君は同志だ
(遥)日記帳 初志貫徹はできなくて白いページに時が埋もれる
(葵の助) 「賞与」ではなくて「寸志」をいただいた非正規雇用の冬、30歳
066:息(1〜25)
(夏実麦太朗) 吸う息に君の香りが混じってて余計なことをしゃべってしまう
(流川透明) 夕暮れに息を潜めて隠れてる鬼の足音影長くして
(葵の助)ため息をつけば瞼が降りてきてビーフシチューに月夜が溶ける
067:鎖(1〜25)
(みずき)水の緒の纏ふひかりは鎖とも 視界を離(さか)る冬の陽炎
(たつかわ梨凰)自由と愛ふたつの鎖に繋がれて術なし 変わらぬ空ばかり見る