題詠2012選歌集(その17)

           選歌集・その17


007:驚(112〜136)
(希) 驚かせてごめんね急に決まったの明日から春を迎えることが
佐藤紀子)驚きはこと過ぎし後襲ひ来ぬ 家をゆがめて地のゆれし午後
(くろかわさらさ)驚いたような目をする君がいてくずれはじめるポトフの野菜
008:深(107〜131)
(青野ことり)返り討ちに遭うのは嫌いもう一度慎み深く姿勢を正す
(本田瑞穂)深川といえば下町雨傘にきちんと雨の音がしている
025:触(52〜76)
(原田 町)がさがさのわが手で触れればほつれそう新婦のチュール優しくゆれて
ましろ子)触れないで欲しいかつての記憶には雨音ピアノあの人がいた
039:蹴(26〜50)
(ありくし)天高くラグビーボール蹴り上げてそのまま消えていく鰯雲
(廣珍堂)新雪を 蹴散らし遊ぶ 子供らへ 始業の予鈴 控えめとなる
(槐)背を向けて小さき石蹴り帰りゆく影遠のきて星の増えゆく
(芳立)缶蹴りの声もしづまり夕焼けにとりのこされたつつじ公園
072:狭(1〜25)
(紫苑)蕗の薹ひとつ葉陰に出で初めてわが狭庭にも春おとづれぬ
(みずき) 狭量と言はれ鬱なる数日を季の移ろひて櫻雨降る
(ケンイチ)朝な夕なくれなゐの影さす山の狭間に暮らす夏はゆきたり
073:庫(1〜25)
(横雲)萩の寺庫裏の衣裄に投げ掛けし蝶の帯あり人影の無く
(ほたる) ブックカバーかすかに革の匂いしてあの日もらった文庫本包む
(みずき) お文庫に帯を結んで踏む秋の色なき風に身を委ねをり
(不孤不思議)春の夜の雨柔らかく庫裏つつむ和尚居るかと訪うて茶を飲む
075:溶(1〜25)
(紫苑)チェロの溶く乳色のもや流れゆき白鳥の影ゆうらりと立つ
(流川透明)ハート型したお砂糖を溶かす時魔法使いになる女の子
076:桃(1〜26)
(夏実麦太朗) 端的に名をつけられて桃太郎われは麦から生まれたにあらず
(みずき) 櫻桃(さくらんばう)ふふみ木蔭の揺り椅子に六月の夢揺らしてをりぬ
(ケンイチ)扁桃の花にまろびぬ早春は少女の胸のふくらみのごと
(流川透明) 桃の花飾って祝う雛祭り御内裏様は誰に似ている
077:転(1〜25)
(横雲)寝転びて君来ぬ昼のけだるきに薄(すすき)揺るるを眺め倦み果つ
(御子柴 楓子)印画紙に転写されゆく人生の浅はかささえいとしく思う
079:帯(1〜25)
(みずき) 帯すでに解きしのちの後悔がとほく蒼ばむ 冬の潮騒
(ほたる)振袖に誇らしげに咲く蝶の帯 吾子よ切なく強く恋せよ
(ケンイチ)うち震へつつゆるき陽にまもられて木ぬれはやうやく早春を帯ぶ