題詠2012選歌集(その19)

選歌集・その19


011:揃(102〜126)
ひぐらしひなつ)不揃いなこころを揺らしついてゆく石段ひとつひとつ数えて
(廣田)かき鳴らすリフの残響揃うとき桜舞い散る軽音楽室
(青野ことり)前髪をぱつり揃えた帰り道 微熱 重たくみえる青空
(磯野カヅオ) 金星と月と木星揃ふ夜に木蓮白く揺れ初めにけり
027:損(51〜75)
(希)損なったつばさを癒すため夜は月光浴がいいらしいとか
(原田 町)運用する資産なければ損得の計算も無くほそぼそ暮らす
(さくら♪)少しだけ損した気分席がえで空が遠くに行った夏の日
(五十嵐きよみ) 損なわれもとには戻らない春のひかりを返す水の静けさ
(梅田啓子) 逐電をし損ないたる女いて二階の窓より通り見ており
028:脂(51〜75)
(穂ノ木芽央)おろかにも合成樹脂の花束にシャネルふりまくやうな献身
(原田 町)楊貴妃の凝脂というを思いつつジャグジーバスに肩凝りほぐす
(さくら♪)真剣に体脂肪率チェックしてスカートの丈決めている朝
(小夜こなた)年輪のごとく増えたる脂肪にも語りたきことあるやも知れず
(梅田啓子)校庭に臙脂のジャージが並びいる十七歳のからだを秘して
044:ドライ(26〜50)
(たつかわ梨凰)幼い日拾い集めた星屑のなごりとして噛むドライフルーツ
045:罰(26〜50)
(たつかわ梨凰)春風が触れくる窓辺にただひとり静かな罰を受け入れている
(ありくし)血はめぐるただ千年の罰として 赤き桜桃また一つ熟れる
081:秋(1〜25)
(紫苑)抽斗の奥にねむれる秋扇(あきあふぎ)たき込めし香も聞こえずなりぬ
(みずき)紅葉を映せる水の静寂を秋思と思ひつ渡る回廊
(浅草大将)行くならばかくもながとの夏よりも秋よし台に風の立つ頃
082:苔(1〜25)
(横雲) 苔に散る紅葉うつくし散る恋のなどて悲しく秋の更け行く
(紫苑)薄ら日の斑を描きつる苔寺にいにしへびとの影行き交ひぬ
(みずき)木洩れ日の揺らめきのなか滴れる苔のみどりに心染まりき
083:邪(1〜25)
(夏実麦太朗)風邪をひく前に葛根湯飲めと風邪ひいてしまった後に言われる
(こはぎ)思い切り泣いて甘えるわたしという女を邪魔するわたしもわたし
(葵の助)太陽を引きずり降ろし助手席で一人占めする邪な夏
(たつかわ梨凰)邪な思いを胸の水底に嗅ぎつつ深まる花冷えの夜
084:西洋(1〜25)
(夏実麦太朗) 太平洋に水はまあるく満たされて大西洋は地図の左右に
(ほたる)西洋のお菓子が青い空ならば和菓子は春の薄墨の色
086:片(1〜25)
(平和也)この冬も間もなく過ぎていくわけで片袖口のほころび隠す
(シュンイチ)片側の靴の底だけすりへって屈託のない日常を抱く
(みずき)一片(ひとひら)の雲のゆくへに恋ふる秋 わたしの風がもう吹いてゐる
(遥)我というジグソーパズル満ちるまで欠片を探し流離うも好し