題詠2012選歌集(その21)

 ゴールデンウィークも、竜巻とともに終わった。今朝は新聞の休刊日なので詳細は判らないが、このところ竜巻の話題が比較的多い。これも地球温暖化のせいなのだろうか。
 連休で選歌の在庫が大分増えるかと期待していたのだが、お休み続きの割にはそれほど増えない。皆様行動的に連休を楽しんでおられたのかとも思う。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>
 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して8年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


              選歌集・その21


020:劇(77〜102)
(廣田)喝采の中で喜劇の幕を閉づ時に孤独は誰より優しい
(七十路ばばの独り言)人生を春秋の劇に喩(たと)えれば今の私は秋の幕開け
(五十嵐きよみ)劇場のロビーの椅子に残されたバラ一輪とよく似た孤独
(風乃茉琴)劇場にかかる演目一通り目を通しても悲恋は悲恋
(RIN)汝が指の辿りに合はせ放つ母音性愛も時に劇と思へば
(南野耕平)喜劇でも悲劇でもない毎日の観客席に君を探した
046:犀(26〜50)
(たつかわ梨凰)匂いつつ敷き積もりつつ最後まで金木犀の激しき生命(いのち)
(希)犀(さい)だってさみしいときには鳴くらしいわたしが泣くのも許してほしい
(佐藤満八)来年も二人でいると思ってた 金木犀の匂う季節に
047:ふるさと(26〜50)
(ありくし)ふるさとに今朝降ることにした雨のためらいこごえ雪とうつろう
(円)「ふるさと」は柔らか過ぎて似合わぬとそっと箪笥に隠す東京
(椋)お互いに戻るふるさと隠しつつ 今この時だけを全てと思う
089:喪(1〜25)
(夏実麦太朗)バス停は真夏の光を反射する喪服のひとの後ろにならぶ
(シュンイチ)会ったこともないほど遠い親せきの喪中はがきがとどいたら風
(蓮野 唯)窓枠の影が喪章のように落ち我が咎知れと暴かれていく
(不孤不思議)母の言ふ生まれ変はりは別嬪にと喪中葉書にその旨を書く
090:舌(1〜25)
(夏実麦太朗)赤道の国の暮しを思いつつ黒糖飴を舌にころがす
(平和也)安物に懲りてなますを吹くなどと駄洒落で舌の火傷ごまかす
(蓮野 唯)舐め取った舌先にある苦味には歓喜へと飛ぶ力が宿る
(紫苑)あやまちの舌に結べる桜桃の茎のしなりよ日の翳りけり
(ケンイチ)にが虫を潰したやうな面持ちで巻き舌をんなの英語を聞きぬ
091:締(1〜25)
(横雲)鎮めるも締め木に絞ぼる想ひかな樒(しきみ)の割れて実の溢(こぼ)れけり
(映子) アナタとの ほんの短い夏の日が   胸締めつけて 未だ 十七
(ほたる)ネクタイを締めれば朝の君になる約束できない「またね」を残し
(浅草大将)一締めの千代紙むなし群鶴を折り初めにしに君逝きたまふ
092:童(1〜25)
(夏実麦太朗)木曜の昼はぽわんとしていますの児童公園無意味に広い
(こはぎ)君と踏む春野に溶ける童歌 朧月夜が隠す指先
(浅草大将)子らがため示すためしの童うた三十一文字につくり難しも
(たつかわ梨凰)菊水を飲み干す悲しき仕草さえ妖しからんと見ゆ菊慈童
093:条件(1〜25)
(こはぎ)嫌いにはならないことを唯一の条件として迎える別離
(みずき)この条件(くだり)違(たが)へぬ恋の誓ひとふ浜木綿の丘返す春濤
(不孤不思議)何もかも条件しだいと告げられて相手の腹を無言で探る
094:担(1〜25)
(平和也) 次くれば担々麺と思いつつ醤油をたのむ初めての店
(紫苑)花籠を担(かた)ぐ乙女の背を追うて朝の風は小路をわたる
(こはぎ)恋をする悪事に加担した君と息を潜める午後の密室
(みずき) 大原女(おはらめ)の担ぐ花籠懐かしく八十八夜の風に吹かれぬ
(ありくし)薄暮亭何色の夢吐息つき糸目ゆ呪い担いてぼくは
095:樹(1〜25)
(夏実麦太朗)菩提樹の下のベンチに寝ころんで夢見る夢を見るという夢
(横雲)散り果てし公孫樹(いちやう)になおも風止まずはや冬の空むなしく広し
(紫苑) 菩提樹(ローレル)の乙女をうたふひとあれば思ひ遙けしカンツォニエーレ
(たつかわ梨凰) 樹のしたに佇めば年相応の傷跡を持つわれに気付けり