題詠2012選歌集(その23)

 在庫がなかなか増えずヤキモキしていたのだが、やっと最終題に手が届いた。ここ2年の経過を振り返ってみたら、最終題を載せたのが、去年が5月7日(選歌集その25)、一昨年が5月27日(選歌集その29)であり、今年は去年より大分遅れている。また、全体としての投稿も少し遅れているようだ。まだまだ先が長い話だから、焦ることはないし、これから投稿が増えて来るのを期待しているところだ。


            選歌集・その23

002:隣(160〜184)
(ワンコ山田)隣人になりたい 朝日の眩しさを共に感じるカーテンの襞
(祥)白い夜、隣りでカルテ書く君の小指の先にささくれがある
(やや)眠らずに隣にいない人のこと考えるとき闇はやさしい
(七生)≪おにぎりを食ってるやつの隣≫だとメールされてる気がする渋谷
(守宮やもり)三月が速度をあげて遠ざかり隣の客は雲を見ている
(sei)隣室に子どものこゑのふたつして若き家族の越し来たるらし
(鮎美)嘆きつつ往く坂の道月光は隣町よりさしこみてゐる
003:散(156〜180)
(やや) やわらかな花びら散らし満月の光はきみの睫毛にふれる
(ぐるぐるフルール)散らかった部屋で迷子になったから君のメールに気づけない夜
(鳥羽省三)葉桜の村一軒の散髪屋 五人目の胎児(こ)を孕めると言ふ
015:図書(101〜125)
(晶)上履きの 鳴きたる音の迫り来て 図書室に散る鬼さんこちら
(三沢左右)図書カード絵の美しき一片を栞となせり春の川辺に
(なゆら)本棚に檸檬をひとつ置くようなくちづけをする図書室のすみ
佐藤紀子)図書室の窓より外を眺めゐき卒業式の前の日の友
022:突然 (77〜101)
(七十路ばばの独り言)突然の訃報を知らせるベルでした木枯らしピューピュー鳴っていました
(湯山昌樹) 突然の雨でもいいよ 君となら並んでぬれて歩いてみたい
(磯野カヅオ)走り来る子の突然の挨拶に同じリズムで応づれば春
031:大人(51〜75)
(さくら♪) もう二度と帰れないとは気づかずに大人顔して春を見送る
(五十嵐きよみ)どっしりと足を開いて立っているかたちがすでに「大人」と思う
032:詰(51〜75)
(コバライチ*キコ)心地よい君の言葉をてのひらで包んで胸の小箱に詰める
(原田 町)七人掛けに五人の座る昼下がり少し詰めてと言えず立ちおり
(真桜)小銭入れ詰まるレシート取り出せば思い出したる旅先の店
049:敷(26〜50)
(円) まだ小さい足が冷たくならぬよう海一面に花びらを敷く
(ひじり純子)取り取りの布はぎ合わせた鍋敷きの焼け焦げの色も少しいとしい
(猫丘ひこ乃)泥棒のイラストはまだ唐草の風呂敷包み背負ってるまま
(芳立)枕べに指のひとつも触れられぬ座敷わらしの初恋のひと
050:活(26〜50)
(ありくし)鰓呼吸を活かし潜るは波女 春雲、視界追う雪、子らへ
(熊野ぱく)責任は取りたくないがしてみたい女子高生の生活指導
(コバライチ*キコ)紫陽花を一輪活けし床の間に移ろう翳のまろき虹色
051:囲(26〜50)
(たつかわ梨凰)寄宿舎の厚きレンガに囲まれて哀しい木々の歌がこだます
100:先(1〜25)
(夏実麦太朗)先をゆくひとを追い越すこともなく歩き続ける駅までの道
(平和也)このごろは女性専用車なわけでごぶさたしてる先頭車両
(シュンイチ)この先で待っているもの思いつつ見上げた空の果てしなき青