題詠2012選歌集(その24)

              選歌集・その24

007:驚(137〜161)
(ひろ子)驚(おどろき)といふ字を睨めば睨むほど何も詠めずに十日も過ぐる
008:深(132〜157)
(小林みに子)まだ間に合うまだ間に合うと言いながら深みに嵌まる春は夕暮れ
今泉洋子)深刻に先のことなど思ふまじ椿の花は艶めきて散る
(ezmi)いとけなく夢見がちなる左手に針刺すように深くつめ切る
018:希(101〜126)
(南野耕平)希望的観測からの逆算でぎりぎり今を走らせている
023:必(81〜105)
(小夜こなた)君だけを必要として生きてゆく道をしづかに照らす片月
(磯野カヅオ) あづなひの香りせし花舞ふ頃に「李歐」必ず読み返したり
024:玩(78〜102)
(中西なおみ)哀しみの記憶に生きた玩具らが夜空を見上げ歌うララバイ
(小夜こなた)玩具箱みたいな駅を通過する点けっぱなしの旅の途中で
(湯山昌樹)東北で求めし玩具のそれぞれをかの地の苦闘想いつつ見る
025:触(77〜101)
(五十嵐きよみ)身の内に火になりたがる声がある叫び出したい僕に触れるな
(小夜こなた)触れさせてくれない君の奥深く母親という鬼が棲むらし
(湯山昌樹)マイク渡す瞬間に手がわずか触れカラオケボックスは二度暖まる
(かげいぬ)もう僕を好きじゃないかと疑って触診すればあまく咲く花
026:シャワー(76〜100)
(梅田啓子)祝福のライスシャワーを浴びながら子は六月の光をはじく
(磯野カヅオ)丸刈りになりて一年過ぎたればシャワー要らずの朝のどかなり
033:滝(53〜78)
(梅田啓子)岩壁にシュプール描き袋田の滝は墜ちゆく深緑の間(あい)
(五十嵐きよみ)終点にまだ行ったことないままに乗る小滝橋車庫行きのバス
(湯山昌樹)水煙に滝見台ごと包まれて誰もが縦でシャッターを切る
(小夜こなた)滝夜叉の怒りのごとくあらはれぬスーパーセルの黒き渦巻き
052:世話(26〜50)
(たつかわ梨凰)神々が大地の世話をする春は土の深みに沈むものあり
(コバライチ*キコ)雨の日も花の世話する君のいてレインブーツの赤の眩しき
054:武(26〜50)
(たつかわ梨凰)鋼鉄の武器は隠したまま錆びて翼のしたに君のぬくもり
(廣珍堂)春の陽に 武士の無念の 狭間あり 新快速は 天王山過ぐ
(原田 町)まつろわぬ坂東武者の裔にして胡瓜いっさい食べぬ家あり
(ひじり純子)武装する仕上げに赤い口紅を強い意志持ちくっきりと引く