題詠2012選歌集(その25)

       選歌集・その25

017:従(102〜126)
(三沢左右)CDの回転数に従って乱反射する別れの涙
佐藤紀子)従者とし我に仕へるパソコンが時に主のごとくふるまふ
034:聞(53〜77)
(真桜)君の声にだけ聞き耳立てている昼の学食喧騒の中
(五十嵐きよみ)聞こえないふりをしていた窓ガラスつたう雨粒ばかり見ていた
035:むしろ(52〜76)
(五十嵐きよみ)喜劇よりむしろ悲劇と名づけたいファルスタッフの立場にたてば
036:右(52〜76)
(原田 町)求人の案内つぎつぎ吾子に来る右肩あがりの頃もありしが
038:的(51〜75)
(コバライチ*キコ)遅々として進まぬ議論のただ中でさらりと的を射る君がいる
(廣田) 標的は23時に訪れる(そして世界はまたすれ違う)
(青野ことり)あまりにも的を射ていて言い返すこともできない 瞳には空
053:渋(26〜51)
(たつかわ梨凰)柿色の渋き装束目に染みる市川団十郎の「暫」
(ありくし)ゆるゆるとマリアナ海溝沈みゆくチョウチンアンコウの渋面を見つ
(希)覚えずに些細な嘘をつくように渋い紅茶をミルクで汚(けが)す
(ひじり純子)あのころの我より大人になった娘(こ)が渋谷のハチの写メ送りくる
055きっと(26〜50)
(原田 町)大丈夫きっと治るよ気休めのことしか言えぬを今も悔やめり
056:晩(27〜51)
(たつかわ梨凰)今晩はとりわけ月が優しくて零れた泪を拾いそこねる
(芳立)晩餐のあとにも謎は解けぬままだれか一人が彼を裏切る
(コバライチ*キコ)大潮の晩を浜辺に生受けしクサフグの子は月光のなか
057:紐(26〜50)
(たつかわ梨凰)雨の日のブーツの紐を解くように愛そうとしていた日があった
(希)新聞を紐でまとめて過ぎ去った日々の早さと重さを思う
(コバライチ*キコ)聳え立つ高層ビルが消えし日の紐育の空白く続けり
058:涙(26〜50)
(粉粧楼)瑠璃色の涙壺買う昼下がり中身は無いと知っているけど
(芳立)夕焼けの傷は癒えたし涙腺がよわくなつたし花を植ゑるか
(コバライチ*キコ)近頃は涙もろくなってねと言ふ友の背に雨垂れの落つ