題詠2012選歌集(その28)

 早いもので、今年も後半に入った。この題詠の催しも同様である。去年の経過を見たら、7月6日に、「選歌集その34」となっている。それよりは大分遅れているようで、これからのペース・アップを期待したいところだ。


<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して8年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


            選歌集・その28


001:今(198〜222)
(鮎美)オリーブの澱む缶詰捨てたればたつた今よりはつなつとなる
(鳥羽省三)金色(こんじき)にキタキツネの尾の黄昏て今日一日の道北の旅
(田中ましろ)菜の花を自分のために茹でながら名もなき今日をあなたで満たす
(月原真幸)たった今交わしたはずの約束を小指の先から逃がす さよなら
014:偉(129〜153)
(村木美月)挫折など知らない頃のれんげ草偉人伝からはらりと落ちる
(ぱぴこ)教科書で知った偉人と自分との距離が大人になる程ひらく
015:図書(126〜150)
(小林みに子)駆け抜けて風を生み出せ図書券をぎゅっと握って本屋へ走る
(葉月きらら)放課後の図書室本を読むよりも気になっている大きな背中
(柳めぐみ)図書室のとある詩集の落書きが空へと続く抜け道だった
(さとうはな)「恋」という文字の頁が哀しくも明るく見えた午後の図書室
041:喫(51〜75)
(梅田啓子)自意識がとんがっていた十九歳ジャズ喫茶にて体をゆする
(穂ノ木芽央)純喫茶のソファに沈む待つことも待たされることもなき週末に
042:稲(51〜75)
(原田 町)スーパーの稲荷寿司など家で食べ今年も連休どこへも行かぬ
(中村成志)いつまでが早苗でいつから稲でしょう田んぼの上はどこも空だけ
(梅田啓子)車窓より稲光見ゆ いずこより我に向けらるる憎悪のあらむ
(真桜)幼き日稲穂ざわめくその中で祖父のちいさな背な追いし夕
043:輝(51〜77)
(コバライチ*キコ)ふるさとの山に雪形生るる季ゆき解け水はきらと輝く
佐藤紀子)七歳が目を輝かせ駆けてくる 買ったばかりの仔犬を連れて
045:罰(51〜75)
(山本左足)罰ゲームみたいに長い坂道を上り続けるだけの人生
(五十嵐きよみ)仕方なく湿ったままの靴を履く何かの罰を受ける気分で
061:企(26〜50)
(アンタレス)吾が未だ動けるを知りひそひそと娘等は何かを企ておりぬ
(粉粧楼) 企んでいるかのような優しさで春忍び寄る真昼の終わり
062:軸(26〜50)
(ありくし)キミが傘ボクが軸だけ選り分けてくつくつ静かな雨の日の鍋
(廣珍堂)掛け軸の 文字のかすれは 激しくも 老人の書と 僧は語りき
(梅田啓子)一瞬にわが軸足を奪いたり悔しまぎれの君のひとこと
063: 久しぶり(26〜51)
(猫丘ひこ乃)あと何回君に言えるか「久しぶり」病室のドア閉じつつ想う
(熊野ぱく)同窓会交わす言葉は「久しぶり」俺の名前は一度も出ない
(ゆこ)「久しぶり」通りすがりを呼びとめる立ち呑み処玉暖簾あり
(粉粧楼)久しぶりそのひとことで綴じられるひとりの時とふたりの時間