世論というもの(スペース・マガジン7月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。


      [愚想管見]  世論というもの       西中眞二郎

 大飯原発の再稼働については、さまざまな意見があるところだろうが、5月下旬の朝日新聞世論調査の結果によれば、再稼働反対が54%、賛成が29%となっている。電話による調査で、対象は約3200件、そのうち有効回答の率は54%だという。
 この程度の対象数で世論の傾向が把握できるのかどうか気になるところだが、統計学の上では、かなりの信頼性があると考えて良いもののようだ。私が気になるのは、むしろ有効回答率の低さだ。世論調査の対象になる案件は、多くの場合、意見が分かれているような案件の場合が多いだろう。私自身が調査対象になった経験はないので、どのような応答がされるのかは全く知らないが、回答数を見る限り、「どちらとも言えない」という人は少ないようで、そのような人が有効回答から除外されているケースもあるような気がする。
 また、調査した新聞によって賛否の率もかなり異なるようだ。新聞社が意図的に操作しているとは思わないし、誘導尋問をしているとも思わないが、はっきりした意見を持っていない人の場合、相手の質問やその新聞社の論調に対して、口当たりの良い「無難な」答を選択する場合もあるのではないか。


 再稼働についての典型的な見解をラフに整理してみれば、極端な意見は別として、以下の二つに集約できそうな気がする。(1)今回の大震災で示されたように、絶対に安全だということは言えない。電力供給の不安を無視するわけではないが、消費者がある程度の我慢をすれば、危険を避けることが出来るのだから、再稼働すべきではない。(2)再稼働しなければ、生活や経済に影響を及ぼすことは目に見えている。確かに絶対安全だということは言えないだろうが、今回の大震災程度のことであれば対応できそうだし、再稼働による危険性は極めて低いものだと思うので、両者のバランスを考えれば再稼働はやむを得ない。
 どちらも間違いだとは言えないだろう。世論調査に答えた人は、多くの場合このような思考の過程を経て、賛否いずれかの結論を出したのだろうと思う。その根底には、その人の世界観や人生観もあるのだろうが、その人の置かれた立場や環境による影響も大きいのではないか。
 報じられたところによれば、相対的に、立地地域の人々に賛成意見が多く、直接関係のない地域の人々に反対意見が多いということのようだ。立地地域の人々は、常に原発に向き合った生活をしているだけに、より現実に即した選択をしているとも言えるだろうし、他方意地悪く言えば、原子力ムラに取り込まれてしまっているという見方も可能かも知れない。政府をはじめとして電力供給に責任を負う立場の人も、同様な傾向がありそうな気もする。逆に関係ない地域の人は、責任や深刻な影響と縁が薄いだけに、理想的な形をイメージすることが容易であり、「自分たちの便利さのために、立地地域の人々に迷惑をかけるという選択はできない」という「やさしさ」から再稼働に厳しい見方をとっていると言えそうな気もする。

 この問題に限った話ではないが、「世論」というものをどう読むべきなのか、むずかしいところだと思う。(スペース・マガジン7月号所収)