題詠2012選歌集(その29)

         選歌集・その29


022:突然(102〜126)
(白亜)突然の災厄の前と後とがつながらぬまま ふたたびの春
031:大人(76〜100)
佐藤紀子時かけて子供が大人になりてのち加速度つけて老人になる
(由弥子)大人しく順番を待つ四分音符冷たい弦のふるえ止まらず
032:詰(76〜100)
(由弥子)うようよと猫神犬神詰め寄りて梅雨の軒先人を値踏みす
(津野)膝抱えスーツケースに詰められた飛べないわたしを夏が見下ろす
(魚住蓮奈)両胸にはやる気持ちといささかの欺瞞を詰めて夏は来たりぬ
044:ドライ(51〜75)
(五十嵐きよみ)全身で風を受け止め漕ぐペダルもっとドライに割り切れたなら
佐藤紀子)「まるで花のミイラのやう」と言ふ夫の視線の先にドライフラワー
046:犀(51〜75)
(梅田啓子)犀角のごとく遥けしカーテンに検診台は仕切られてあり
(五十嵐きよみ)背表紙に犀のロゴあり十代で初めて買ったハードカバーに
佐藤紀子)父母のゐし故郷の町の夕暮れに金木犀の香りただよふ
(青野ことり)目の前の角が気になり眠れない犀らしくない犀のうわごと
047:ふるさと(51〜76)
(真桜)犀星のような境地に至れない我がふるさとは遠すぎるから
佐藤紀子)ふるさとを捨てしにあらず やむを得ず離れて遠くカナダに住まふ
(nobu)ふるさとの岸辺を洗う暖流は今年も早い春を呼ぶのか
048:謎(51〜75)
(ぽむ酢)かつて聞き確かめもせず離れゆく 街の七つの謎をも知らず
(五十嵐きよみ)謎解きの山場で降りる駅が来て残りはホームで立ったまま読む
(佐藤紀子)不利なことを全て忘れる便利さがわが夫の持つ謎の能力
064:志(26〜50)
(コバライチ*キコ)ゆっくりと山古志村に春の来て桜に染まる人も牛馬も
065:酢(26〜50)
(はこべ)三杯酢義母に教わるキッチンに明日のみちがみえてたあの日
070:芸(26〜50)
(アンタレス)無芸だが大食ならず残りしは鑑賞のみのテレビ人生
(もふ)病む人が芽を摘んでいくいたずらのゆえに園芸ためらうと聞く