題詠2012選歌集(その32)

 

       選歌集・その32


008:深(158〜182)
(わたつみいさな)さみしさとやさしさの意味も分からずに偽りの森で深呼吸する
023:必(106〜130) 
(砂乃)父さんの「あれはどこだ」は母さんの通訳がいつも必要となる
035:むしろ(77〜101)
佐藤紀子)忠告を聞かぬもむしろ清々し この人と決め嫁ぎゆきたり
055:きっと(51〜75)
(佐藤紀子)「初めてのウソだね、きっと」みどり児が横目で母を窺ひて泣く
(葉月きらら)会う機会増えればきっと振り向いてくれる気がして待つ駅の前
(nobu)「二人なら暖かいね」ときみがいふ今年はきっと冬好きになる
(湯山昌樹)約束もしていないのにあの人はきっと通る、と待ったあの夏
072:狭(26〜50)
(原田 町)子育ての頃は今より狭い家それでも人はたびたび来てた
073:庫(26〜50)
(もふ) 三倍のポイントゆえに週末に読むあてもない在庫が増える
(ゆこ)カランコロ小走りで行く夕暮れに文庫結びのきみの背踊る
075:溶(26〜50)
(はこべ)溶解炉怒るがごとく燃える場に緊張抱き少しずつ寄る
(アンタレス)確かなる物と思いてチョコの箱枕辺に置き溶けてはかなき
(猫丘ひこ乃)溶けきれてないコンソメを噛むように君の不満を聞く昼休み
(槐)汝(な)と我と一つに溶くる心地して甘き緑の風になぶらる
076:桃(27〜51)
(原田 町)猛暑日のつづけば思う故里の井戸に冷えてた西瓜や桃を
079:帯(26〜50)
(廣珍堂)帯解に やまとの野辺が 見え来たり ローカル線は いにしへの風
(東 徹也)淋しさを帯びたカメラが映しだすパステルカラーの内側の街
(真桜)寒村が沸き立つ夏に帯締める神の遣いに扮するために
(コバライチ*キコ)我が胸に抱へしものを下ろすごと身を締めいたる帯を解きゆく
080:たわむれ(26〜50)
(円) 前世では恋人だった電柱をたわむれに抱く やはり冷たい
(熊野ぱく)会社には行きたくなくて駅前の日陰で猫とたわむれている
(フユ)たんぽぽの綿毛とたわむれる人よ 空に思いをしたためており