題詠100首選歌集(その34)

選歌集・その34


016:力(129〜153)
(杜崎アオ)向かい合うことをおそれるはつなつのぼくらは磁力線のいなづま
(さとうはな)跳躍の落下点美(は)し重力はただしくきみに働いている
(るいぼす)ほしいのは見えないものを見る力 見えても見えないふりする力
027:損(101〜125)
(村木美月)笑むたびに私は少し死んでゆく伝え損ねた心とともに
(黒崎立体)損なったきみのすきまに吸ういきを満ちるばかりのみずっぽい夏
036:右(77〜101)
(由弥子)夏蝶の右折禁止を右折せり光も風も影も従え
(砂乃)ゆっくりと確かめてみる右肺を切り取った後の祖父の溜め息
(柳めぐみ)右手には大人の事情 左にはたったひとりの君 夕茜
(ワンコ山田) 右側に居た気配まだ覚えてて素直に右が向けないでいる
037:牙(76〜100)
(中西なおみ)隠し持つ牙がふわりと目覚めればふとふりかえる15の私
038:的(76〜100)
(なまにく)炭酸の強いソーダの刺激的爽快感で駆け抜けろ夏
040:勉強(76〜100)
佐藤紀子)「勉強になります」と言ひ引き下がる 反論したきをぐつと押さへて
041:喫(76〜100)
(湯山昌樹)喫煙席のぞいてみれば誰もかも苦い顔してコーヒーを飲む
(砂乃)はんなりと佳人は泳ぎ切ってゆく 喫水線の下は見せずに
(ワンコ山田)君となら喫煙席に座ってもいいよシャワーをくぐって帰る
(さくら♪)喫茶去の意味を教えてくれた師の面影偲ぶ紫陽花の道
043:輝(78〜102)
(青野ことり)輝きはそのままにして手をかざす文月はじまり旅の便りに
(湯山昌樹)砂浜に一瞬強く輝きて没してゆけり 夏至の太陽
(由弥子)たましひの入れもの薄し半夏生むつかしきかな輝くといふこと
(なまにく)少年が大人になろうと捨てていくものが輝きを放つ 青春
(三沢左右)蝉の背の輝きに似て夏の日の水ぎはの君の踵まばゆし
060:プレゼント(51〜75)
(すずめ)リボン掛け裸の私をプレゼント今日は満月変り身の夜
(七十路ばばの独り言)腕傷め日傘させない母親にプレゼント来たりつば広帽子
佐藤紀子)神様のプレゼントだと言ひ聞かす運動会の朝の快晴
(小夜こなた) うるう秒プレゼントされ昨年の夏より長いキスを交はせり
078:査(26〜50)
(東 徹也)「検査でね」続きをさえぎる唇で砂時計まで止める夕暮れ
(猫丘ひこ乃)川沿いを歩けば白い自転車に乗った巡査が過ぎる夕暮れ