題詠100首選歌集(その37)

            選歌集・その37


013:逆(153〜177)
(ちょこま)教科書を逆さのまんま読みあげてしまったように終わる告白
(桑原憂太郎)逆さまにしても右肩は上がらない業績グラフを眺め続ける
今泉洋子)わたくしを秋が詩人に仕立て上げ逆光のなかに戦げる薄
046:犀(76〜100)
(湯山昌樹)犀川の流るるほとりに住む人は皆やわらかき眼をしていたり
(ワンコ山田)同じ月を見上げた記憶の片隅のどこかに金木犀が咲いてる
048:謎(76〜100)
(中西なおみ) 謎解きを楽しむ手つき襟足の焼けた少女の駆け抜ける夏
(白亜)またひとつ嘘はまなざしに脱がされて謎は果てなき夜にとかれる
063:久しぶり(52〜76)
(あみー)いつの日か久しぶりって笑いあうそのためだけに作る友達
(本間紫織)久しぶりからで始まる台本を奥歯辺りで用意している
(五十嵐きよみ)叱られに来たのにあっさり許されて佇む 久しぶりに見る海
(しま)「久しぶり」あとの言葉が見つからずきのうからの白い便せん
064:志(51〜75)
佐藤紀子)一日をまた一日をと生きるうち行方不明のわが志
(七十路ばばの独り言)志野焼の花器に一輪白椿客待つ茶室に精霊が棲む
(nobu)青雲の志(こころざし)抱く青年の街にあふれし時代は何処(いずこ)
066:息(51〜75)
(梅田啓子)荒き息かたえに聴きしはいつのひか夏のひと日を繭ごもりおり
(しま)木枯らしの予感はやはり淋しいと白い吐息の朝がつぶやく
佐藤紀子)息白く見えゐし冬を想ひをり 今日の気温は三十四度
068:巨(52〜76)
(五十嵐きよみ)ぎっしりと並んだ見出しに「激」や「巨」が踊る週刊誌の車内吊り
佐藤紀子)中吊りの棚のやうなる「コ」の文字が居心地悪く巨の中に浮く
070:芸(51〜75)
(原田 町)芸能人と称する人の顔と名が一致せぬままテレビ観ている
(梅田啓子)干されたることさえ飯の種にして芸人ばかりが肥えゆく日本
(湯山昌樹)アシカの芸母の手握り見つめたり 驚異に満ちた遠い夏の日
(五十嵐きよみ)何を買うあてもないのに覗いては手芸の店につい長居する
085:甲(26〜50)
(梅田啓子)ふるさとの〈 甲子正宗 〉そなえたり禁酒を解かれし父の墓前に
090:舌(26〜50)
(椋)舌先にほんのり感じる甘い恋 戸惑いながら飲み込んでみる
(原田 町)舌足らずにママと呼びしがいつのまにオフクロとなり果てはババアか