題詠100首選歌集(その39)

             選歌集・その39


004:果(192〜216)
(星川郁乃)明日からは腐敗と呼ぶのだとしても今日の果実を抱くよりなくて
(由布子)果実酒とふ洒落たものなく黒豆の酢漬けでつくるサワードリンク
(桑原憂太郎)業績は吸い込まれゆく紙のごとシュレッダーの手前で果てり
滝音)世の果てはおそらく母に似てるだろう白く冷たく温かい闇
(星桔梗)瑞々しい果実含みし唇を奪えないまま季節は変わる
014:偉(154〜178)
(嶋田さくらこ)アボカドの種偉そうにしているね要らない物と言われぬように
015:図書(151〜175)
(なまにく)文部省推薦図書の感想が書けないままで大人になった
(紗都子)記憶からこぼれていった鳥たちの名に会いたくてかよう図書室
019:そっくり(131〜155)
(冥亭)「父上とそっくりですな…」わが額(ぬか)をたどる床屋の指の記憶よ
049:敷(76〜100)
(湯山昌樹)昨日までこたつやぐらのあった場所 敷かれたうすべり夏の香運ぶ
(中西なおみ)大空に敷き詰められた青色に切り取り線をつける飛行機
071:籠(51〜75)
(柳めぐみ)ゆすらうめ籠いっぱいに摘み終えてふりむくと父が消えていた、夢
(磯野カヅオ)蝉の音も35℃も遮られエレベーターの籠上がりゆく
(五十嵐きよみ)とびっきり陽気に歌う鳥ばかり集まれパパゲーノの鳥籠に
佐藤紀子)泣き顔の絵文字をつけて届きたり風邪に籠れる友のメールは
(小夜こなた)竹籠の香りをふふむ冷や飯も馳走であつた夏をとむらふ
073:庫(51〜75)
(しま)手のひらにのせてポエムの心地よく中也を聞いている文庫本
(七十路ばばの独り言)横浜の赤煉瓦倉庫に風が吹く昔のロケの思い出乗せて
(湯山昌樹) グランドの器具庫の扉を閉めた時 祭終われり 夏も終われり
074:無精(51〜75)
(五十嵐きよみ)姉たちに任せっきりで末っ子の特権として無精を決める
(湯山昌樹)体育祭の翌日は完全休養日 無精ひげにて一日暮らす
075:溶(51〜75)
(しま)終わりから始まる歌のリフレイン 夕日が赤く溶けゆく海で
(nobu) 溶液をまぜたみたいなパステルが淡きトーンのこの春の色
(五十嵐きよみ)窓際で広げた本の一行が午後のひざしにいつか溶け出す
佐藤紀子)哀しみは夕べの雲と溶け合ひてうすむらさきの空を漂ふ
076:桃(52〜76)
(青野ことり)指のあとつけないように爪の先つるりと剥いた桃ほどの幸
(湯山昌樹)この夏のあまりの暑さに山梨へ桃購(あがな)いに行く気も起きず