右向き左向き(スペース・マガジン10月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。


      [愚想管見]右向き左向き        西中眞二郎


 この5月号にも書いたように、ここ数年題詠100首というネット短歌の会に参加し、私のブログで勝手な選歌をしているのだが、3年ばかり前に、面白い内容の短歌に出くわした。それは、「牛」という題に対して、「偏見はないけど牛はいつだって左を向いてるような気がする」との作品である。作者のお名前は、仮にAさんとしておこう。
 その選歌をした私のブログのコメント欄に、私は次のような趣旨の書き込みをした。―――Aさんの歌から、短歌とは全く関係ない話を思い出しました。随分前に何かの本で読んだ記憶があるのですが、「自動車の絵を描かせるとほとんどの人が左に向かって走っている絵を描くし、工場の煙突から出る煙の絵を描かせるとほとんどの人の煙は右に流れている」ということです。何人かの人にテストしてみましたら、たしかにその通りでした。そのことを思い出しましたので、感想としてAさんのブログにコメントしましたら、Aさんから御丁寧な御返事があり、それによれば、「魚の向きについて聞いたことからヒントを得たのだが、自動車と煙のことは知らなかった」とのことです。私は魚のことは知りませんでした。―――
 この私のコメントに対し、何人かの方からコメントがあった。その趣旨をご披露しておこう。
 まずある女性から、―――確かに。煙は右に流して描いてしまいます・・・。漫画などだと、人間がめくるページ側を向いていないと、ストーリーがつっかえる感じがするというか、流れが悪くなるので、人物が左向きをむいていることが多い。ということは聞いたことがあります。それが読者に自然と刷り込まれているようなところもあるかもしれませんね。―――
 また、別のある女性から―――絵の右向き左向きは利き手によって描きやすい方があるんですよ。(左利きの人が字を書くときに紙を大きく傾けて書くことが多いのはたぶんそのためだと思います)。右利き左利きに分けて統計を取ると、たぶん、違う結果が出るのでは、と想像します。―――
 これに対する私の補足のコメント。――― コメントありがとうございました。補足しますと、以前テストしてみました際、「自分の孫は逆だった」という人が居り、お聞きしてみたらそのお孫さんは左利きだということでした。おっしゃる通り、右利きと左利きで、脳の配線が逆になっているのかも知れませんね。それにしても、なぜそうなるのか、私には判りませんし、以前読んだ本にも、その理由は書かれていなかったように記憶しています。―――
その後、作者のAさんからお礼のコメントがあり、最後に私からもコメントした。―――こどものころ我が家では「牛乳石鹸」を愛用していた記憶があり、たしかパッケージに牛の絵が描いてあったことを思い出しましたので、ネットで「牛乳石鹸」を検索してみましたら、現在の牛も左を向いていました。―――
 ブログでの応答の要旨は以上のようなことだ。その後読んだある資料によれば、我が国の場合、絵巻物の流れは、時間的にも空間的にも右から左に流れて行くので、それがわれわれの感覚のもとになっているのではないかと推論している。良く判る話だが、それでは煙が右に流れるのはなぜなのか、その答は今のところ見付からない。。(スペース・マガジン10月号所収)