題詠100首選歌集(その41)

        選歌集・その41

003:散(206〜230)
(星川郁乃)視界からはずれたひとはいないひと 夏のパスタに茗荷を散らす
(桑原憂太郎)机上には未決書類が積み上がり散らかつたままの七月となる
021:示(129〜153)
(星桔梗)秋ひと日時計の針の指し示す時刻に君はまた居なくなる
022:突然(127〜151) なし
023:必(131〜155)
(じゃこ)前髪を切れば必ず声かけてくれるあなたのための前髪
031:大人(101〜125)
(柳めぐみ)しなやかに駆ける大人になっていた誰より激しかった従兄は
(はぼき)大人買いしてもよいほど大人かと自分いましめ財布をしまう
032:詰(101〜125)
(なまにく)僕らしく生きようとして僕らしい物を無理やり詰めた本棚
(秋)ストロベリーパフェの底には真夜中が敷き詰められて君を待ちおり
(鳥羽省三) 詰みなるを既に知りにし故なるか羽生善治の羽織揺れたり
(今泉洋子)問ひ詰めど何も答へぬ子の瞳遙かな星の瞬きをする
(南葦太)木曜は不燃ごみの日 部屋中に散らかる”なぜ”を袋に詰める
054:武(76〜100)
(ワンコ山田)脳内の武闘派たちを宥めては探して探して大人の台詞 
(白亜)武庫川沿い 7年ぶりに車窓から夕焼けのいろに溶けこんでみる
(三沢左右)武侠心ひとつ鞄に放り込み両足で立つ通勤快速
055:きっと(76〜101)
(吾妻誠一)確率じゃ出会えるはずもない君にきっと来世もドキドキしている
(砂乃) 幼さが薄れてにょきっと伸ばされた息子の足のはみ出る炬燵
(珠弾)似合わない色のTシャツ夏空にさらされているきっとオレンジ
058:涙(76〜100)
(穂ノ木芽央)熱風に涙も乾く昼下がりコインの裏が出たから西へ
(鳥羽省三)春愁は緋桃の色か花筏浮かべてそぞろ涙を誘ふ
(三沢左右)フレームの細い眼鏡に一粒の涙を溜めている夏の午後
080:たわむれ(51〜75)
(るいぼす)覗き込む君の視線は蛇となりたわむれさせてくれない予感
(鳥羽省三)たわむれにただ一人乗る観覧車我が一日の思い出として
佐藤紀子)たはむれの母の言葉を真に受けてをさなの大き目が潤みたり
(五十嵐きよみ)教会に満ちるひかりとたわむれるごとオルガンの音色が響く