題詠100首選歌集(その42)

 すっかり秋めいて来たところで、最終題がやっと2巡終了した。ゴールまであと1月半、多くのランナーの皆様のご健走を念願している。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して8年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


      選歌集・その42


025:触(127〜151)
(杜崎アオ)ひたひたと蝕まれゆく岸辺にてわたしはわたしの触角をぬく
(はぼき)この先をどう続けよう思案してそっと画面に触れる指先
033:滝(104〜128) 
(村木美月)堕ちていくあなたの滝は蒼ざめてふたりでいても淋しい一夜(ひとよ)
(はぼき)滝なんてもう何年も見てないとテレビの前でため息をつく
034:聞(103〜127)
(今泉洋子)風鈴の千の音色の風聞きて嘘だらけなる世に生きてゐる
(星桔梗)幼子の無邪気に遊ぶ声を聞き幸せの音此処にと思えリ
035:むしろ(102〜126)
(はぼき)過ぎたことくよくよ悩むよりむしろ明日に迫るものを恐れる
059:貝(76〜100)
(晶)踏み入れば 砕けし貝の鳴く浜に 潮の香りの夜風吹くなり
(穂ノ木芽央)夜光貝のごとき肌(はだへ)のしづもりにいらだつ指の熱さかなしさ
(ゆり・くま)向日葵と白い貝殻水色の欠片を箱に さようなら夏
078:査(51〜75)
(梅田啓子)査定する鋭きまなこ持たぬゆえ流れながれてわたしは魚座
(七十路ばばの独り言)検査故断食しろといわれても朝餉の準備よ主婦は悲しい
佐藤紀子)査定より少し低めに売り渡す 母の住みゐし小さきマンション
(はぼき) いくたびも検査結果に念を押す心配ないと言われてもなお
097:尾(26〜50)
(廣珍堂)切れた尾が 激しく跳ねる 夏の日は トカゲ形した 雲くづれゆく
(柳めぐみ)ハナミズキ、尾長、こうもり、鶯のこえ この街で知ったものたち
(コバライチ*キコ)涼風に酷暑の汗を思いつつ秋刀魚を一尾裏返し焼く
(はぼき)これ以上追ってくるなと言うように赤い尾灯が遠ざかりゆく
098:激(26〜52)
(あみー)助手席にかすかに残るぬくもりをペットボトルで激しく叩く
(槐)寄せ返す吐息激しき夜の明けて朱に染まりし身の愛ほしき
099:趣(26〜52)
(コバライチ*キコ)回廊を左右に従ふる瑞龍寺かかる雲さえ趣のあり
(原田 町)今日だけはすこしセレブな趣で演舞場の桟敷に座る
100:先(26〜50) 
(新井蜜)冬の月あけ方の街ゆめのなか視線の先に若き僧あり
(コバライチ*キコ)幸福は蜃気楼なりとふ先達の言葉肯ひ鰯雲追ふ
(原田 町)堂々と優先席に座わればいい白髪と禿げのわれと連れ合い
(はぼき)先生と呼ばれることに慣れすぎた自分いましめ初心に還る