題詠100首選歌集(その43)

          選歌集・その43

002:隣(210〜235)
(高良すな)月まるく風にたゆたう穂のすすき隣の猫をじゃらして遊ぶ
(なつ)乗合はす隣の女性は筆談に河南省の出身と言ふ
007:驚(187〜211)
(村田馨)吃驚という言葉さえ飲みこんでかずら橋へと歩みすすめる
008:深(183〜207)
(鮎美)永遠にふたり黙つてゐたかつた地下の深くの弱冷房車
026:シャワー(126〜150)
(ひろ子)この胸の痛みも喉(のみど)のひと言もシャワーを浴びて流れぬものか
(村田馨)北上の光のシャワー鈍く照る舘坂橋は朝の渋滞
(さとうはな)もう二度と会えないことに気がついてシャワーの下に立ちすくんでる
(紗都子)にぎやかなライスシャワーを浴びながら歩くふたりに影は見えない
036:右(102〜126)
(音波)右側を向いて寝る癖あの部屋はわたしに浅く刻印をした
(はぼき)言葉などいらず目と目を見交わして右に同じとうなずいてみる
037:牙(101〜125)
(村木美月)恋一夜 鋭い牙が生えてくる肩ごしに見る明け方の月
(鳥羽省三) 「亡き後は結社誌『牙』を廃刊す!」石田比呂志の遺言哀れ
(紗都子)角よりも牙もつものが怖いことあなたはきっと知らないでしょう
038:的(101〜125)
今泉洋子)岐路に立つわれを導く吉報と夢占いは的中したり
(紗都子)詩的にはならない言葉ならべつつ真空パックに鋏を入れる
039:蹴(101〜125)
(桑原憂太郎)号外の報を丸めてなでしこの狂い咲きたる早朝に蹴る
056:晩(77〜101)
(穂ノ木芽央)箔押しの晩餐会の招待状シンデレラなぞなりたくもなし
(珠弾)晩酌に至る道程各々のグラスに時が満たされて夜
(ワンコ山田)昨晩は声が聴きたい月でした亜麻色に髪はじめて染めて
060:プレゼント(76〜101)
(たえなかすず)来年のプレゼントなら黒曜石(オプシディアン)もうじき会えないひとになるのに ...
(るいぼす)さみしさは次に会うまでのプレゼント きっとあなたに埋めてもらえる
(葉月きらら)あきらめを覚えた朝のプレゼント雲ひとつない澄んだ青空
(匿名希望)プレゼント交換している最中にわずかにふれた手が宝物