題詠100首選歌集(その44)

選歌集・その44


018:希(152〜176)
(村田馨)絶望の底に小さな希望あり一条戻橋へと出向く
024:玩(128〜152)
今泉洋子)怪獣のしづかに眠る玩具箱開くれば過去が押し寄せてくる
040:勉強(101〜125)
(鳥羽省三)そのかみの勉強嫌いの少年が「勉強します!」と西瓜売ってる
041:喫(101〜125)
(珠弾)戯れに買ったピースを燻らせる一年振りの喫煙週間
(匿名希望)真夜中の漫画喫茶のさみしさのみんな深海魚になればいい
(紗都子)ささやかな仮面をかぶる人として漫画喫茶の闇にとけこむ
(やや)ふたり手をとりあいながら消えてゆく背中見つめた喫煙ルーム
057:紐(76〜101)
(中西なおみ)首吊りの紐に吊るされ晒されててるてる坊主変によい顔
(はぼき)靴紐を結ぶ時間ももどかしく心が体追い越してゆく
(ワンコ山田)メデューサと名付けた髪も痩せてゆくまだらの紐に秘密組みつつ
081:秋(52〜76)
(吾妻誠一)窓辺より猫と眺める秋の暮れ やさしい人の足音探す
(はぼき)「んだなす」と秋田なまりでほほえんだ旅の空での小さな出会い
佐藤紀子)暮れやすき秋の夕べの高速路テールランプが赤くつらなる
(五十嵐きよみ)夕立に降られて買ったひまわりの模様の傘を秋には仕舞う
082:苔(51〜75)
(梅田啓子)憎しみは舌苔のごとくはびこれり きれいなうたはもう歌えない
(晶)いにしえを 深き緑に染め紡ぐ 神も辿りしや苔の石段
佐藤紀子苔寺を塀の外から覗きたり 木陰に少し雪の残る日
(五十嵐きよみ)最後には海苔がなくなりひとつだけとろろ昆布のおにぎりにする
083:邪(51〜76)
(梅田啓子)風邪という病気は無いという医者の待合室に 【東大】 の文字
084:西洋(51〜75)
(七十路ばばの独り言)大西洋真ん中にした地図を見て日本は何処かと孫不審顔
(小夜こなた)西洋の墓地のどこかにひっそりと眠る私の前世を想う
(五十嵐きよみ)親戚の集まりでまた語られる西洋かぶれの祖父の思い出
(白亜)とりどりの果実が憂いをおびていく たそがれどきの西洋菓子店
086:片(51〜75)
佐藤紀子)失くしたと諦めてゐしイヤリング片方だけとなりて出てくる
(五十嵐きよみ)終点の駅のベンチに片方の手袋だけが残されている