題詠100首選歌集(その45)

選歌集・その45

010:カード(182〜206)
(はぼき)日常をしばし離れた旅先でポストカードにペンを走らす
(青山みのり) 決着をつけて終わりにしたいのにカードで清算できぬ雨空
016:力(154〜178)
(桑原憂太郎)力量をいかにはかるや目標を評価シートに書き込む夕べ
(鳥羽省三)はらからは年齢順にあの世行き「次はわたし!」と姉は力みぬ
今泉洋子)地震(なゐ)振らす怪しき力秘めもちてけふの満月海の上(へ)にあり
(紗都子)力点と作用点だけあるけれど見つけられない支点 さよなら
(村田馨)薫風や浴衣の裾をはためかせ両国橋を力士が通る
(青山みのり)ひかりとも海とも思う幼な子の力加減を知らぬほほえみ
042:稲(101〜125)
(桑原憂太郎)四半期の計上利益ヤミのなか稲穂のごとく刈り取られゆく
今泉洋子)稲が子を孕む刹那よひさかたの天地破りていかづち走る
(紗都子)稲妻は稲を実らせゆくひかりあなたの頬をあおく照らして
(やや)稲荷町のバス停に立つ少年がにぎりしめてるグリコのおまけ
(村田馨)黄昏にヘッドライトの照らしたる稲城大橋われ一人のみ
043:輝(103〜127)
(秋)生きている証が僕の口を出て冬の白さに輝いている
(はぼき)いま割った卵の黄身の表面も輝いているちょっとした朝
今泉洋子)天平の舳先が沈む銀漢にいまだ輝く鑑眞の夢
(やや)じゃあねって笑って見せるつよがりに輝きを増す北斗七星
(村田馨)瀬戸内の凪ぎたる海の輝きを胸いっぱいに多々羅大橋
045:罰(101〜125)
(村木美月)幸せを手に入れるため受け入れた不条理という幾つかの罰
(はぼき)同じ道ぐるぐるしてる人生のダメな自分に罰金を科す
(紗都子)罪あれば罰もあります時を経てかたちを変えてゆく白い雲
(莢豆)日差し照る窓辺に罰を求めいる折られた花によく似たうなじ
061:企(76〜100)
(晶)夏盛り 企てしことの多かれど 胸に残るは波の音のみ
(秋)月曜日 企業兵士に生まれしや軍靴の音に似た打鍵音
(中西なおみ) 企みを諦めた空みずいろのジグソーパズル置き去りにして
(葉月きらら)企てを考える夜小悪魔のしっぽも揺れる恋の作戦
(白亜)木苺のジャムを煮ながら企てを鍋と語らう 魔女3年目
(珠弾)大いなる夢の企て終わらせる朝の光りの確かなること
(桑原憂太郎)やうやつと網にかかつた情報をつなぎ合はせて企画書を編む
062:軸(76〜100)
(秋)円卓を這いずる銀の杯(さかづき)の回転軸が震える夜明け
(砂乃)地球儀の軸を外して手に載せて神の気分を試してみよう
(希)理科室で色褪せていく地球儀の傾きに添うふたりの地軸
085:甲(51〜75)
(tafots) 生黄泉の甲斐の地へ入る 甲斐の地はどこからも山どこゆくも山
(晶)一枚を 羽織らせ送る肌寒さ モズ甲高く枝に鳴くなり
(三沢左右)舗装路に甲砕かれし亀のゐて水草かはく黒き秋空
087:チャンス(51〜75)
(湯山昌樹)半生を振り返ってはチャンスよりピンチが多い気がする不思議
088:訂(51〜75)
(梅田啓子)改訂版わが半生を作りたし Uターンしてあそこを曲がり
(nobu)訂正のきかぬことあり人生は予習のできぬエチュードのよう
(小夜こなた)好きなだけ訂正印を押しつづけ二人ぼっちの気ままな夕暮れ