題詠100首選歌集(その46)

選歌集・その46


011:揃(177〜201)
(桑原憂太郎) 午後九時に網にかかつた情報を繋ぎ合はせて資料揃へる
(新藤ゆゆ)お揃いの季節感では歩きたくなかった 海はどこまでもうみ
(紗都子)前髪を切り揃えてはため息をついて鏡をそっとうかがう
(鮎美)仏間にはあなたがをらねば生まれ得ざりし三十二人揃ひて座る
(青山みのり)一面に穂の出揃えば波すべてすすきの色の海となりたり
044:ドライ(101〜125) 
(村木美月)美しいままでもなぜか悲しげな風にそよげぬドライフラワー
今泉洋子)吊されしドライフラワーの寂しさに似る脳死とふ新しき死は
(津野)酔うほどにコアントローに浸されてケーキに沈むドライフルーツ
048:謎(101〜125)
(三沢左右)いま君が胸に塗る謎ひとかけら舐めとるような朝の日だまり
063:久しぶり(77〜102)
(はぼき)何気ない「お久しぶり」のひと言が二人の距離を表している
(中西なおみ)こまぎれの思い出たちに会うために久しぶりに聞く懐かしい曲
064:志(76〜101)
(吾妻誠一)噛み締めた奥歯がキュッと鳴く街で内ポケットに寸志を隠す
(白亜)志を決めて旅立つ君の背に見えない翼を描きたしておく
(桑原憂太郎)同僚と6000円の居酒屋で部内の志気の強度を測る
065:酢(77〜102)
(由弥子)難問の真正面より集う夜は酢牡蠣エイひれ熱燗二合
(吾妻誠一)大叔父が熱弁振るう年忌の夜 蛸の酢漬けがくちゃくちゃと云う
(鳥羽省三)泡立ちて花火の如し酢の中にラムネを入れて一人の夕餉
(村田馨)自転車の籠に揺れいるミツカン酢夕やけ橋をわたりおえたり
066:息(76〜101)
(鳥羽省三)吐息吐き小皿叩いて歌ってた過ぎし昭和は懐かしきかな
(白亜)すうすうと寝息をたてる猫の毛をそよぐ風がいいます、春です
(桑原憂太郎)ディスプレイを見つめたままの21:00後ろの席のため息を聞く
(村田馨)ため息をついている人ばかり立つ飯田橋駅快速通過
068:巨(77〜102)
(はぼき)ふるさとに秋は来にけりつややかな巨峰の房はずっしりとして
(村田馨)宵闇に工場群の巨きなる灯り滲みたる名港トリトン
070:芸(76〜100)
(秋)芸を仕込まれたウサギが逃げ出してたぶん夕日を見ながら眠る
090:舌(51〜75)
(梅田啓子)巻き舌のRのかたちに外(と)を向きて曼珠沙華のまっかな花さく
佐藤紀子)閻魔さまに舌を抜かれる夢を見き 母に「癌ではない」と言ひし日
(小夜こなた)ペコちゃんはすこしさみしい ポコちゃんに舌なめずりをたしなめられて
(磯野カヅオ)舌を出し笑つてゐれば安寧でAKBの話題を選ぶ
(紗都子)寡黙から饒舌に至る道筋をつけてよ冬のドライマティーニ