題詠100首選歌集(その47)

選歌集・その47


009:程(184〜208)
(紗都子)成程を口癖にして生きてゆく自我をしずかに飼いならしつつ
(鮎美)程程にやさしき君とあの日々の五年後の夏の終はりの夕陽
(匿名希望)夕立のにおいでいつも目をさますぼくは身の程知らずでいたい
(青山みのり)音程に秋の香りをふくませて西の窓辺にうたうハミング
012:眉(182〜206)
(紗都子)三日月のかたちに眉を描いたら街のあかりを壊しにいこう
(鮎美)さんざんに盗み見をせし横顔の眉のかたちも思ひだせずをり
(村田馨)時雨るるや番傘を手に渡月橋 男眉(まみえ)の女性(にょしょう)が過ぎる
017:従(152〜177)
(紗都子)血縁をあわくにじませ従姉妹たち駈けおりてゆくたそがれの坂
(星和佐方)四半世紀前のわたしが微笑みぬ無線従事者免許の写真
027:損(126〜151)
(青山みのり)見逃せば損とばかりにみじろぎもせずにみつめる今日の落陽
030:敗(127〜151)
(桑原憂太郎) 敗れゆくことが美学といふ友のもう戦へぬ人生を思ふ
(紗都子)はじめての敗戦投手のようだった折りたたまれた背中ちぢめて
046:犀(101〜125)
(村木美月)木犀は金より銀が好きというあなたといるとたぶん幸せ
(はぼき)犀利なる先端赤く火照らせて三角香ははんなり香る
今泉洋子)昨日にもまして匂へる金木犀秋はしづかに闌けてゆくなり
(紗都子)天上に浮かぶ小さなてのひらが金木犀の香を撒いている
(龍翔)上履きの片っぽ探す校舎裏 金木犀のかほり漂ふ
067:鎖(77〜101)
(中西なおみ)雨の日の鎖さびしいぶらんこの宙ぶらりんのあの頃の椅子
(紗都子)午後五時の連鎖反応ひとりずつ秘めた話をほどきはじめる
069:カレー(77〜101)
(はぼき)固めたる覚悟の隙を突くようにカレーうどんの汁は飛び散る
(桑原憂太郎)この地位でいいとは思つちやゐないけど本日のカレーが気になつてゐる
(星桔梗)カレー鍋つつく団欒その中に居る筈の無いあなたを想う
074:無精(76〜101)
佐藤紀子)出無精になり来し我のハイヒール傷まぬままに十年が経つ
(山本左足)無精ひげだけが静かに伸びてゆく一人暮らしの秋のゆうぐれ
089:喪(53〜78)
(畠山拓郎)喪いし未来図ひとつ むかしから想い描いた海市が消える
(五十嵐きよみ)年齢の順に死ねればいいものを喪服のひやりとした肌ざわり