尖閣列島(スペース・マガジン11月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。この原稿を渡した後になって、石原都知事が辞意を表明した。そんなわけで、石原さんに関しては、タイミングがずれた感もある。月刊誌の場合、この種の「時期遅れ」が生じてしまうのもやむを得ないというべきか・・・。


    [愚想管見]  尖閣列島              西中眞二郎

 尖閣列島を巡って日中関係は難しい局面を迎えている。中国の一部民衆の言動は目に余るものがあったし、中国政府の言動も、大国という地位を占めた割には小児病的と言わざるを得ないだろう。こちら側から見れば、中国に対して不信感・不快感を抱かざるを得ない心境だが、そうかと言って、全面的に中国を非難するにはためらいも残る。
 と言うのは、今回の一連の動きに関する限り、引き金を引いたのは、我が国の側だと言わざるを得ないからだ。隣接諸国との間にはさまざまな問題が生じる可能性が高いが、その最たるものが領土問題だろう。良き隣人として付き合って行くためには、どちらに理があるかという問題とは別に、用心深い対応が必要になる場合もあろう。尖閣列島の扱いを先送りして来たのは、日中国交回復以来の両国の「生活の知恵」だったのだと思う。しかも、「実効支配」して来た我が国の側から問題提起する必要は、全くなかったものだと思う。
 そういった「賢さ」を振り切って、「正義」を振りかざした石原都知事私見に基づく無責任な言動がことの発端だったし、これを受けての政府の対応も拙劣なものだったように思われる。「国有化」のタイミング、それを中国側がどう受け止めるかということに関しての掘下げの甘さなど、さまざまな問題があったような気がする。また、自民党の新首脳陣も、一連の動きの尻馬に乗って、騒ぎの鎮静化とは異なる方向に顔を向けているように見え、仮に政権奪還した場合にどのような姿勢で臨むのか、不安な要素も多い。
 石原都知事の言によれば「シナの属国」になるくらいなら、経済的不利益はやむを得ないということのようだが、隣国が嫌がる言葉をあえて使う幼稚さに加えて、何をもって「シナの属国」というのか、さっぱり理解できない。隣人に気遣いすることを「属国」呼ばわりするのだとすれば、近隣諸国の友好関係などということはおよそ視野の外になってしまう。
 政府の基本姿勢は、「両国間に領土問題はない」ということのようだが、これでは竹島に関する韓国の姿勢と変わらないことになってしまうのではないか。我が方に理のある話であっても、先方が問題視している以上、外交上の呼び名は別として、常識的にはそれが「領土問題」であることは自然な感覚であり、先方の問題提起を真摯に受け止めた上で、我が国の立場を主張することが大人の態度ではないのか。「生活の知恵」に基づく曖昧さを捨てて、あえてパンドラの箱を開けてしまった以上、「領土問題は存在しない」という木で鼻をくくったようなセリフがどこまで通用するのか疑問なしとしない。
 先の見えないことばかりだが、一連の動きの結果、目下のところ両国間の友好関係には大きなひびが入り、中国関連の企業、更には観光施設等にまで大きな影響が及んでいる。東京都民と直接のかかわりのない事柄についての無責任な言動により、あえて隣国との友好関係を損ない、多くの国民に不利益を与えた石原都知事の責任は重大だが、それはさておき、今後日中両国政府が大人の態度で事態の鎮静化を図ることを願わずには居られない。(スペース・マガジン11月号所収)