題詠100首選歌集(その49)

選歌集・その49


019:そっくり(156〜180)
(星桔梗)笑みかける瞳の在り処がそっくりであなたの事をまた思い出す
(黒崎聡美)そっくりだねと言えばふたりに睨まれる負けず嫌いの姉と弟
052:世話(101〜125)
(桑原憂太郎)世話好きな短期派遣のオバさんと休憩室で鮭弁を食ふ
(紗都子)草花を世話するひとの肩越しに雨をいざなう雲が来ている
(南野耕平)お世話にはなっていないが指先が「なっています」と打ち出すメール
072:狭(76〜100)
(じゃこ)狭いのはお前のせいと言いたげな顔がひしめく満員電車
075:溶(76〜101)
(紗都子)チョコレートの溶けるはやさで夏の日はくたくたになる眠りたくなる
(山本左足)今すぐに溶けて消えたいあのひとに当たる朝陽を遮らぬよう
076:桃(77〜101)
(はぼき)問題は夢の中まで追ってくる桃源郷は夢のまた夢
(白亜)ゆつくりと桃を食むときよみがへる 少女をすてし夏のゆふべは
(村木美月)戸棚からふいに見つかる桃缶のようにひっそりあなたを思う
079:帯(76〜100)
(晶) 雨樋に 鳥の来たりて目覚めれば 白み帯ぶ空に明けの明星
(紗都子)温帯のやさしさが好き手を振ればやわらかい風を返してくれる
092:童(51〜75)
佐藤紀子)よく読めばグリム童話の結末はシェイクスピアより悲劇なるべし
(磯野カヅオ)つぎつぎにルールの変はるしりとりの青童らと湯舟に浸かる
(五十嵐きよみ)童話なら三人姉妹の末っ子はいちばん賢く素直だけれど
094:担(51〜75)
(晶)お御輿の 担ぐかけ声弾みつつ 燻る田の道青は続けり
095:樹(51〜75)
佐藤紀子)記念樹は合歓にしようと提案す 結婚式の祝いの席に
(黒崎立体)街路樹に巻きつけられた電飾がただ刺々と浮かぶまひる
(穂ノ木芽央)白き影樹氷の森に消えてゆき墓守のごと鴉降りたつ
096:拭(51〜75)
(はぼき)冗談でこんな話はしないはずメガネを拭いて君をまた見る
佐藤紀子)物言はずゆつくり眼鏡拭ふ夫  まだ決心のつかぬ様子で
(村田馨)湖の美(は)しき水面を拭うごと津軽は晴れて鶴の舞橋