題詠100首選歌集(その51)

 秋も深まり、随分涼しくなった。昨日自転車で近場に出掛けたら、手が冷たく、手袋が欲しくなったほどだ。
 締切も近付き、ランナーのペースもかなり上がって来たようだ。もっとも、完走者はまだ100人にかなり遠いので、百人一首作成には少し気になるところだが、例年の例によれば、その作成に支障を来たすようなことはまずないだろうと楽観している。


           選歌集・その51


001:今(248〜272)
(久野はすみ)長旅になるやも知れぬ文庫版古今和歌集ひざにのせたり
(増川恭子)晩年を今だと知れる人のいてやさしい声でわれをむかえり
(伊織)「今だから言えるけれど」とうつむいて君の時効は音より速い
(ひいらぎ)今までと少し違った明日になる玄関先に新しい靴
015:図書(176〜200)
(青山みのり)図書室に西日の射してほのあかき影さまざまに揺れはじめたり
(黒崎聡美)川沿いを選んで図書館までを行くむかしの恋を思い出すように
022:突然(152〜176)
(詩月めぐ)打ちつける突然の雨帰り道わたしの大きさ分だけ濡れる
031:大人(126〜150)
(鮎美)大人とはこんなものかと思ひつつちりんどろんを温め直す
(紗都子)大人しいと言われることが厭だった褒め言葉だとわかっていても
(RIN)大人たる為の階(きざはし)何処までもありて見上ぐる空に夕星(ゆふづつ)
032:詰(126〜150)
(村田馨)手詰まりが解けないままに日が暮れる万助橋の信号の下
(鮎美)この秋も独身女性のまま過ぎて駄菓子詰め放題を嗜む
035:むしろ(127〜151)
(さとうはな)むしろ闇 花はこびゆくゴンドラがしずかにひらく春の水面は
(鮎美)夢のなかもみぢむしろを踏みゆけば手を広げ待つまだ若き父
(青山みのり)「むしろ君はいい人だよ」をうけながし猫一枚をかぶりなおしぬ
055:きっと(102〜126)
(紗都子)「たぶんね」と軽くこたえるリフレインさせる「きっと」は見せないままに
(牧童)老いるほど酔仙翁のフランネル酒よりきっと温しと思う
058:涙(101〜125)
(村木美月)とめどなく涙落つ日も燃えるゴミ燃えないゴミを分別している
(黒崎聡美)いもうとの涙のつぶの大きさにわたしは消えてなくなってゆく
078:査(76〜100)
(白亜)「以上」の語で調査報告書を終へて深き穴よりやうやう出でぬ
(桑原憂太郎)デットラインがわからないまま子会社の中間監査をやり過ごしたり
(さとうはな)風になりそこねたみたいスカートの丈直される服装検査
099:趣(53〜77)
佐藤紀子)「趣」と言へる程度に掃き残す 木枯らしに散る銀杏落ち葉を
(紗都子)趣のある庭ですねと言いながら果樹の実りをたしかめている
(青野ことり)趣味なんて言っていいのか 全身で風を匂いを季節を歩く