題詠100首選歌集(その52)

          選歌集・その52


004:果(217〜241)
(メイダイ)朽ち果てた案内板を墓標とし廃病院に胎児は眠る
(飯田和馬)果物のこころが種にあるならば林檎はとても淋しいこころ
(藤崎しづく) おそ夏の果実を含むくちびるでやさしい人を待ち侘びている
(久野はすみ)果実みなふとりゆく秋かなしみを抱けば甘き水こぼれたり
005:点(214〜239)
(飯田和馬)今日の日を点描法で描くよう君とメールを交わすひと時
006:時代(205〜229)
(久野はすみ)旧校舎ありし時代を言うときの眼裏に青き柳がゆれる
033:滝(129〜153)
(飯田彩乃)世界中が凍るその日を待ちながら息を潜める滝の裏側
034:聞(128〜152)
(裕希)本心は現実逃避したいのに探してしまうあの日の新聞
(鮎美)壁越しに聞く雨音よ未満から圏外になるほどの歳月
(ひいらぎ)聞きなれた貴方の柔らかな声に反応してる体全部で
039:蹴(126〜150)
(黒崎聡美)かさかさのゆりの木の葉を蹴りながらひとりはそんなに淋しくはない
(ひいらぎ)蹴り上げたボールの白が青空に溶け込んでいく予定のない日
(RIN)晩秋の枯葉蹴散らす爪先の痛み今年の残り数へて
060:プレゼント(102〜126)
今泉洋子)プレゼント買ふこと多き地酒屋に今日はわがため「鍋島」を買ふ
(村木美月)クリスマスプレゼントにはまだ遠い別れの言葉ラッピングする
(牧童)恋を乞う老いを諌めるプレゼント蓮華升麻の写真見つめる
061:企(101〜125)
(佐藤満八)企画書を作成するよに書き込んで仕上げる明日の別れの手順
(紗都子)密室で企てられた計画が日にさらされてしゅわりと消える
(音波)秋からの起死回生の企ても本気じゃないと見え透いている
(黒崎聡美)ひそやかな企てうまくいかぬままきみのすきまに顔をうずめる
(牧童)老いの恋企てごとは穏やかに弁慶草のしぶとさ保ち
081:秋(77〜101)
(桑原憂太郎)来春の仮契約を期待してまずはメールで秋波を送る
(西村湯呑)春夏冬二升五合という言葉教えてくれた父想う秋
今泉洋子)ぬばたまの鳥獣戯画の秋草は見るたび違ふ色彩奏づ
083:邪(77〜102)
(ワンコ山田)ぽっかりと時間ができて寸胴でぐずぐず煮込む邪推ばかりを
(桑原憂太郎)邪な気分とわかる日もありてPCの前に動かずに居る