題詠100首選歌集(その53)

          選歌集・その53


021:示(154〜178)
(黒崎聡美)イルカのショーのプールを示す看板はピンク色したイルカが笑う
(詩月めぐ)あなたとの明日を暗示するような重たい雲をひとり見上げる
023:必(156〜180)  なし
056:晩(102〜126)
(村田馨)一晩のおもいでとしてよみがえる萬代橋のやさしき灯り
(津野)晩秋のテーブルに置く腕時計紅い果実に寄りかからせて
(黒崎聡美)鳥の声鋭さを増す晩秋に液晶画面の電源を切る
(さとうはな)未だ熱抱きゐる砂にひざまづく晩夏は流星(ほし)のやうに過ぎけり
059:貝(101〜125)
今泉洋子)君の背の貝殻骨をなぞりつつ告白以前の愛を思へり
(紗都子)ささやかな貝殻骨にふれるとき子どもをまもる鎧と思う
(村田馨)貝がらをそっとしまって帰りましょう江の島大橋夕陽が沈む
(莢豆)花庭(ガーデン)に植え込まれたる貝殻があの日の事を思い出にする
062:軸(101〜125)
(さとうはな)さみどりの風に巻かれて地球儀の地軸は春を軋ませている
070:芸(101〜125)
(さとうはな)それそれがジュリエットでありイブである芸術祭のキャンプファイアー
082:苔(76〜100)
(桑原憂太郎)月末はこの時間から長くなり夜食としての海苔弁を喰らふ
今泉洋子)はんなりと紅葉(もみぢ)吹雪ける黄昏にふと思ひ出す苔寺の庭
(黒崎聡美)苔玉のならぶ雑貨屋そこだけが霧雨のまま夕暮れてゆく
084:西洋(76〜100)
(ひじり純子)薄型のテレビがなかった時代には居場所のあった西洋人形
(さとうはな)産まぬことひとりで決めた冬の日に西洋梨はかなしいかたち
086:片(76〜100)
(紗都子)片方を失うことのかなしみの一番ちいさいかたちはピアス
(ひじり純子)捨てきれぬ片方だけのイヤリング失くした恋の行方にも似て
(三沢左右)片羽を喪ひたりし蟻ありて礫の上を曲がりつつ這ふ
(山本左足)ジーンズの裂け目からのぞく右ひざに夏の欠片が貼り付いている
088:訂(76〜100)
(磯野カヅオ)6回も改訂された仕様書を寒いフロアで見る日曜日