題詠100首選歌集(その55)

             選歌集・その55


038:的(126〜150)
(黒崎聡美)的外れなアドバイスだと気づいてるカフェモカは冷め重たい甘さ
(牧童)落日の秋海棠にうなだれて一方的な恋の終焉
063:久しぶり(103〜127)
(村木美月)久しぶり流れる曲のフレーズに心震える店の片隅
(青山みのり)見たこともない微笑みに戸惑って久しぶりとはすぐにわらえず
064:志(102〜126)
(葉月きらら)踏み出せば壊れてしまう志半ばの恋をもてあそぶだけ
(小倉るい)水色の手紙の意志の強かりき金平糖にしっかり蓋す
065:酢(103〜127)
今泉洋子)締め鯖を作る厨に酢の香たち熱燗旨き季となりにけり
(たえなかすず) 泣けるだけ泣いて夜道を酢を買いに ああブランコを漕ぐひともいる
(黒崎聡美)カップからひといきに飲むもずく酢よ夏はわたしにやさしいですか
(さとうはな)秋の日の儀式のように花びらをほどいてつくる菊の酢の物
(ひいらぎ)酢の物も作ってあとは待つだけで深夜ラジオに耳傾ける
(さくら♪)かったるい授業抜け出し学食で紫酢飲む外は雨降り
066:息(102〜126)
(たえなかすず)ひと息に飲んだダイキリ 絶縁をしない男に凭れかかって
(青山みのり)今なにか言おうとしたね息を小さく吸って印字をするプリンター
(さくら♪) 吐く息がうっすら白く見える朝蜜柑色したマフラーわたす
068:巨(103〜127)
(南野耕平)静かなる智慧を宿した巨木から何か得ようと木肌に触れる
(音波)最近じゃ広田先生の巨いなる暗闇ぶりを真似したくなる
092:童(76〜101)
(南野耕平)光あるところに影もあることを教えてくれる童話の世界
(桑原憂太郎) 学童の道路横断に阻まれて深呼吸する緩やかな午後
(さとうはな)好きだった童話を伝えあったこと二度目の春はゆっくり過ぎる
(小倉るい)童謡を喜んで聴く母の居て雪降る夜は化け猫が来る
(牧童)老人も童も顔を赤らめて七竈燃ゆそれぞれの秋
093:条件(76〜100) なし
095:樹(76〜101)
(湯山昌樹)未踏なる記録を樹立した人は伏し目がちにて人生を語る
(五十嵐きよみ)静寂をしだいに深めてゆく夜の樹海を見おろす白き満月
096:拭(76〜100)
(ワンコ山田)泣いた分だけ拭ったら土砂降りにやられちゃったと濡れていていい
(津野)清拭の青いタオルが冷えぬ間に開かない窓に溶ける初雪
(五十嵐きよみ)強がりを言っても不安を拭えずにいるのが逸らした視線でわかる
(小倉るい)湿原に登り来たりて汗拭う ミヤマリンドウ決然と青