題詠100首選歌集(その56)

          選歌集・その56

018:希(177〜201)
(裕希)ちょっとだけ弱音を吐いてもいいですか「希望」という字も今日は封印
(小倉るい)山手線のガードをくぐり希望とは離れた場所に住み慣れし日々
024:玩(153〜177)
(青山みのり)すこし前までは鬼門の方角の玩具売り場をひとり訪いたり
(ひいらぎ)手にしてた玩具の中にいくつもの夢が隠れていたはずだった
(如月綾)枕元には食玩とぬいぐるみ ひとり寝の夜も淋しくはない
026:シャワー(151〜176)
(青山みのり)傾ぎたるシャワーノズルと向かい合い無言で顔をあらう十月
(黒崎聡美) 頼りないシャワーヘッドにまざまざとここが家ではないことを知る
(海)水泳の授業の前の水シャワー子らは両手を合わせ修行す
045:罰(126〜150)
(稲生あきら)罰ゲームみたいに雨が降りつづく今日はなんだか失恋日和
(ネコノカナエ)生きていることへ罰などないはずだもうすぐ東の雲が燃え立つ
(飯田彩乃)許すとはまったき罰のことであり君は窓辺にほほえんでいる
048:謎(126〜150)
(黒崎聡美)ひんやりとあなたの謎が見えていてゆびを伸ばしてふれられずにいる
(小倉るい)飲み崩れ私の部屋に泊めたのに昨日と違うネクタイの謎
(鮎美)あのときのあなたとわたし謎のままポタージュの底にまぎれてゆきぬ
067:鎖(102〜126)
(黒崎聡美)曇天は日ごとに冬の色となり際立ちてくる鎖骨の窪み
(音波) 会いたい人に会いに行かない言い訳を鎖のようにぶら下げて寝る
074:無精(102〜128)
(さとうはな)ともすれば書きかけばかりになる詩に無精の定義あてはめてみる
(青山みのり)山火事のごとくあかねに夕焼ける空に無精なひつじ寝そべる
(音波)変わらないあなたでずっとあるように指で探して剃る無精髭
089:喪(79〜106)
(南野耕平)喪服から数珠と喪章を取り出して替りにしめる白いネクタイ
(なつ)父にしか聞けぬことあり喪が過ぎてあれもこれもと問ひたきの増え
今泉洋子)会ふことの少なくなりし親族(うから)らと会ふ時おほかた喪服着てゐる
(小倉るい)涼しげな喪服に香の立ち上り杉の木揺らす風は去りたり
(黒崎聡美)喪の家の開け放された玄関に青麦色の風通りゆく
094:担(76〜100)
(桑原憂太郎)しやあないながかけ声となる総務部が社員総出の御輿を担ぐ
(湯山昌樹)人形が担架に乗って登場し救命訓練間もなく始まる
(五十嵐きよみ)励ましたつもりが負担になっていた窓の曇りを指先で拭く
100:先(76〜100)
(小倉るい) 人参の葉の先端に留まりたる天道虫はしばし動かず