題詠100首選歌集(その57)

             選歌集・その57


042:稲(126〜151)
(黒崎聡美)ぼつぼつと天気の話をする祖父とお稲荷さんを二個ずつ食べる
(青山みのり)稲刈りを終えた案山子の遺言のようにはかない今日のゆうぐれ
(鮎美)二十一センチの靴の歩幅にて稲の臭ひの濃き通学路
044:ドライ(126〜150)
(ひろ子)すまし顔しても私は知ってるよドライな仮面の下の優しさ
(鮎美)向かひあふことをためらふテーブルに糖白く浮くドライフルーツ
050:活(126〜150)
(やや)ダウニーの香りの残る綿シャツに妻とふたりの生活を見る
(ネコノカナエ)活き活きとしなくてもいい雨あがりバスの窓から見る冬の虹
(RIN)吾の底の「いつか」を恐れ横たわる活断層の長きひとすぢ
(新藤ゆゆ)しゅうまつの生活感のない部屋の片すみにいて街を、みている
(鮎美)ご活躍をお祈りしますと結ばれしメール閉ぢ風呂の追ひ炊きをする
069:カレー(102〜126)
(龍翔)沈黙を守ったままで差し出したカレーライスに箸を突き刺す
(小倉るい)その頃は年上のヒトに興味なくさわさわカレーを好んで食べた
071:籠(102〜126)
(黒崎聡美)雲のなか雲が籠もっているような一日過ごす 誰からも遠く
(小倉るい)町はずれのフリマで買った籠ひとつ思い出だけを入れておきます
(青山みのり)自転車の籠いっぱいにすすきの穂を咲かせて街の花野をゆかむ
(ネコノカナエ)かごめかごめ籠のカモメを解き放てほら冬の海ほら冬の虹
072:狭(101〜125)
(市川青)西荻の狭いワンルームの海でただようクラゲです夜ひかります
(牧童)優しさの思い出残し藤袴狭き川辺に消えた恋唄
(音波)輝きに目を狭めれば独りでは拒んでいられないほどの海
(Jingo)見上げれば狭い星空法善寺横丁に月があるはずもなく
073:庫(101〜125)
(星桔梗)文庫本片手にいつもの指定席待つのもひとつの楽しみとして
(さとうはな)触れられぬもののさみしさ 書庫深く風になりゆく全集がある
(杜崎アオ)変わらない庫内温度にきょうからは冬限定のチョコ積まれゆく
(小倉るい)倉庫から出てきた卒業写真にはあなたを好きになる前のボク
(青山みのり)大切なものはいつでも隠されて閉架書庫には秋のひだまり
087:チャンス(76〜111)
(ワンコ山田)チャンスかもしれない今日の占いに敢えて甘えてみる日とあって
(牧童)消え去りし恋のチャンスも老いゆけば忘れな草を飾る逃げ道
(龍翔)前髪しかないチャンスの神様がスタイリストを困らせている
097:尾(76〜102)
(湯山昌樹)長き尾の黒猫我をにらみたり 夫(つま)を取られし女のごとく
(小夜こなた)尻尾まで餡の詰まったたい焼きをかじれば消えてゆきます秋思
今泉洋子)神々が帰りきたるやざわざわと尾花がさやぐ霜月朔日
098:激(78〜102)
(小倉るい)ちょっとだけ刺激のほしい日曜は庭木にのこぎりを押しあててみる
(牧童)老いらくは激しからずや傷つかぬ日陰に恋す石蕗の花