題詠100首選歌集(その58)

 ゴールも余すところあと1日。今日あたりもっと投稿が伸びると思っていたのだが、選歌集がやっと1組揃ったところだ。去年の場合、今日の選歌集は66、67の2組になっていたのだが、それに比べると大分少ない。かくなる上は、最終日の明日の大幅な伸びを期待するほかない。


            選歌集・その58

046:犀(126〜150)
(裕希)青空に運動会がやってくる金木犀のかおりにのせて
(ひいらぎ)隣には誰もいないと気付くとき金木犀の香りが揺れる
(こすぎ)犀の角お猪口に化けてとくとくと父の遺した酒ばかり呑む
047:ふるさと(127〜152)
(南野耕平)「ふるさと」と呼べる所はないけれど「あのころ」と呼ぶあのころはある
(さとうはな)舟べりに風ほどけゆく ふるさとを持たぬあなたと花火を待った
(ひいらぎ)ふるさとはどこにもないと泣く君の背中は私のふるさとになる
(小倉るい)葬列の最後尾には白布(しろぬの)を持つ翁居てふるさとの夏
(ひろ子)訪れたこともないのに懐かしい君のふるさとTV(テレビ)に映る
(鮎美)天離る鄙なりて我がふるさとは古里、経る里、雪の降る里
049:敷(127〜152)
(小倉るい)なべ敷きの茶色のしみにあなたとの5年の生活(くらし)振り返り居る
(ネコノカナエ)敷布団の端が冷たいこんなふうに冬は突然深くなるもの
(RIN)我らしさ問はずに生きてゆけぬかと白き敷布の皺を伸ばす夜
052:世話(126〜150)
(黒崎聡美)なにげない「お世話さま」という一言に救われていた六年だった
(裕希)好きなんて言えずにメールの書き出しは「いつもお世話になっております」
(青山みのり)生ゴミに大事なものを捨てたこと下世話な月がじっとみつめる
(やや)風に身をゆだねて耐えるすすきの穂「世話になるな」と父がまた言う
(久野はすみ)世話物の義理人情にかたむきて梅田の橋へこころを飛ばす
075:溶(102〜127)
(小倉るい) いつまでも溶かして遊ぶ角砂糖あの春の日の掌は温し
(中西なおみ)雲ひとつない空さがす十五夜に照らされ溶けた月の抜け殻
076:桃(102〜126)
(南野耕平)刻々とワケを増しゆく店先の端に積まれたワケありの桃
(さとうはな)泣き足りる日はこないこと気がついた桃のかおりが満ちゆく夢に
(青山みのり)鬼を見ても見ぬふりをする現代のやや弱気なる桃太郎たち
(ネコノカナエ)壊れやすいものがあるって知るたびに桃を剥くのが上手くなってく
077:転(101〜126)
(さとうはな)失った夢もいつかは光るだろう 回転ドアの向こうの夜空
(黒崎聡美)晴天のしたを歩いているうちに転がるように秋ふかくなる
(杜崎アオ)おそれずに迎えいれたき冬があり輪転機やや熱をはらみぬ
079:帯(101〜125)
(牧童)ドラセナの幸の香りに包まれて帯を解く指をしばし休める
(さくら♪)ふたりして本の帯見て財布見て目で合図する学校帰り
080:たわむれ(101〜126)
(牧童)葉牡丹の中で二人でたわむれて眠りつきたや飛べないツバメ
099:趣(78〜103)
(津野)趣きを替えてもてなす酒器の色その手の老いにひとすじの影
(さとうはな)服の趣味ゆるやかに似るはつはるの時計台にて待ち合わせよう
(五十嵐きよみ)少女趣味だと言いたげな口ぶりで誰かが『赤毛のアン』を持ち出す