題詠１００首選歌集（その５９＆６０）
泣いても笑っても最終日になった。午後ずっと出掛けていたので、選歌は夜になってしまった。もう１回分くらい選歌集が出来るのかもしれないが、とりあえず「その５９」をお届けしよう。もし今日中に次の選歌集が出来れば、これに続けて載せる積りだし、もし出来ないようなら、明日以降の落ち穂拾いに委ねることにしようかと思う。（２２：２８）
選歌集・その５９
016:力（１７９〜２０３）
(jun)砂時計の砂に力を与えようクリスマスまであと一ヶ月
027:損（１５２〜１７６）
（詩月めぐ）「行かないで」この一言が言えなくて掴まえ損ねた背中見つめる
030:敗（１５２〜１７７）
（久野はすみ）百七十九連敗の馬も居しパドックにふるまぶしきひかり
051:囲（１２６〜１５１）
（やや）ふわふわのうぶ毛揺らして呼吸する命を囲む空のあかるさ
053：渋（１２８〜１５３）
（小倉るい）山里の農家食堂のデザートは栗の渋皮煮 母は元気か
（ひいらぎ）渋滞の窓から見える街並みはますます君に会いたくさせる
（飯田彩乃）みあぐれば渋谷はふかき谿の底 ハチ公の尾をなでながら待つ
（稲生あきら）何もせず過ごす休日いつもより少し渋めのお茶を飲んでる
（鮎美）忌中札片付けられて軒先に渋柿のなき秋の来にけり
078:査（１０１〜１２８）
（飯田彩乃）窓の外に世界もうひとつあるような日を検査薬とともに過ごしぬ
081:秋（１０２〜１２６）
（杜崎アオ）縁日で出会ったひとをきゃらめるの箱へ葬りそれぞれの秋
（牧童）マルメロの秋の魅惑に歩をゆるめ共に老けゆく微笑みながら
（龍翔）秋風が哀しい笑みで織り上げた赤と黄色のタータンチェック
（小倉るい）大根を洗う母の背「つ」になりて野渡る風は冷たくて秋
（藤崎しづく）かんたんに秋がきたので降る雨のしずくに濡れて代々木でおりる
（久野はすみ）秋霖のほの暗き日に運ばれてくるものがある息つめて待つ
082：苔（１０１〜１２９）
（小倉るい）山腹の苔むす石碑は貞観の波の高さと誰かが言えり
（飯田彩乃）苔むした庭にふたりの爪先をならべて座る前世のごとく
（青山みのり）まかせる。と言われて選ぶ苔色のカーディガンから冬がはじまる
083:邪（１０３〜１２７）
（久野はすみ）今日のわれをしいて入れるとするならば邪悪なパンダというカテゴリー
084:西洋（１０１〜１２５）
（黒崎聡美）講堂に祈りのような光みちページをめくる西洋美術史
「その５９」の後選歌を続けたら１０題貯まったので、「その６０」としてお目に掛ける。このほかにも２５首以上貯まった題もありそうだが、どうせ今日中にすべて終えることはむずかしいので、後は明日以降に譲ることにしたい。（２３：３４）
選歌集・その６０
054：武（１２６〜１５１）
（小倉るい）雨の日は別れ話をしたくない総武電車で逃げて行きたい
（青山みのり） 武富士のＣＭ消えて愚痴を言う相手も無くて夜は冷え込む
055：きっと（１２７〜１５１）
（ネコノカナエ）こりもせず「きっと」が好きな僕たちがいて夕闇に歌が聞こえる
（出雲もこみ）大丈夫きっとと添えた音の裏八分休符の躊躇いが空く
（鮎美）今きつと乾きゐるらむ妻の待つ家へと急ぐ君のくちびる
058:涙（１２７〜１５１） なし
085：甲（１０３〜１２７）
（小倉るい） じゃがいもを剥く手の甲の母に似て幸せ皺の広がりており
（ひいらぎ）滑らかな君の手の甲触れてみる何を言っても嘘になるから
086:片（１０３〜１２７）
(村木美月)「もう風邪はひくなよ」という言葉さえお守りになるあなたの欠片
（睡蓮。）求め合う今となっては片想いしてた頃より孤独は深い
（ネコノカナエ）ほらこれが夜空の欠片さらさらと銀河が流れるみたいに粉雪
（ひいらぎ）何気ない君の言葉の欠片さえ今日をカラーに塗りかえていく
（壬生キヨム）片方の靴だけ脱いだ、という歌詞の意味を今でも考えている
088:訂（１０１〜１３１）
（杜崎アオ）訂正印多き書類を裁断す自白のごときあかき自意識
（飯田彩乃）訂正の白いテープをマラソンのゴールのように貼りわたしたり
090:舌（１０１〜１２８）
(村木美月)饒舌な私の嘘をボジョレーで真っ赤に染めてグラスを揺らす
（壬生キヨム）猫舌のお前はスープが冷めるまでやっと悲しいことを話した
091:締（１０１〜１２９）
（ネコノカナエ）水道の元栓を締め眠る夜を重ねるたびに冬は深まる
092:童（１０２〜１２８）
(村木美月) 日が落ちてひとりふたりと帰りゆく児童公園ベンチの枯れ葉
(Jingo)祭りには童に還る仕合わせを分かつ朋ありふるさとよろし
(飯田和馬)十代はただただ薄っぺらだった端折られすぎた童話のように
093:条件（１０１〜１２８）
（黒崎聡美）手に取った薄い雑誌に「恋人の条件」という特集ページ
