選挙が終わった(スペース・マガジン1月号)

 日立市で刊行されている「スペース・マガジン」というタウン誌に、ある御縁で「愚想管見」というコラムを持たせて頂き、今年で9年目を迎えた。版元のご了解を頂いた上で、毎月刊行後にこのブログに転載している。もともとは肩の凝らないものを書く積りだったのだが、世相を見ていると書きたいことがいろいろ出て来るので、ついつい堅い記事が多くなっている。今年こそは、原点に返って、肩の凝らないものにしたいと思っているのだが、果たしてどうなることか・・・。
 この稿は選挙が終わった直後に書いたものなので、今となっては多少ピンボケのところがあるかも知れないが、かろうじて賞味期限には間に合っているような気がしている。なお、選挙前の12月6日のこのブログに載せた「選挙がはじまった」と、かなりの重複があることをお断りしておきたい。


    [愚想管見] 選挙が終わった       西中眞二郎

 新聞等の予想通り、総選挙は自民党の圧勝に終わった。それにしても、前々回の自民圧勝、前回の民主圧勝、そして今回と「雪崩現象」が続くが、小選挙区制のメリット、デメリットが顕著に出ているということなのだろうか。
 一言で言えば、前回の総選挙で期待を集めた民主党が政権与党としての限界を露呈した結果、いわば自動的に自民党に政権が戻って来たということなのだろう。しかし、谷垣自民党ならまだしも、安倍自民党は、いわゆる「国民政党」から「右派政党」に変質しているようにも見える。憲法改正国防軍や集団自衛権の主張、そして「日本を取り戻す」というスローガン、一体どの日本を取り戻そうということなのだろうか。まさか戦前の日本に戻そうという意味ではないとは思うが、安倍総裁の言動などを見ていると、それが杞憂だとは思えないような気もするし、「民主がダメなら自民」と単純に乗り換えるにもためらいが残る。そういった意味では、政権の一翼を担う公明党に、リベラル派としての面目発揮を期待したいし、参議院との間での「ねじれ」が残っているのも、ひとつの安全弁だという気もしている。もう一つ、国粋的で威勢の良いスローガンは実は選挙向けのもので、政権を執った後は、政権政党としての長年にわたる経験と良識の上に立って、謙虚な大人の姿勢で国政に当たることを期待できるのかも知れないし、またそう期待したいところだ。
 「維新」が大きな地位を占めたことも不安材料の一つだ。現状の改善を放棄し、ゼロからやり直すのが「維新」だと思うが、私は我が国の現状がそれほど絶望的だとは思っていない。それに、「維新」という言葉には、王政復古、尊王攘夷といった後向きのイメージや、青年将校のクーデターによる「昭和維新」のイメージがついて回る。そして、「維新」を叫ぶ人たちのメンタリティーに、これらに似たきな臭さと現状の地道な改善努力を放棄した投げやりな自己陶酔すら感じるのだ。私の目から見て最悪の選挙結果は、自民党と「維新」による「右派勢力の大同団結」だったのだが、自民党の「勝ち過ぎ」の結果、どうやらその連携の危険性が一応去ったように見えることは、不幸中の幸いなのかも知れない。
 それにしても、国粋主義的な政党に変身したかに見える自民党を支持する人がこんなに多いというのは、良く理解できないところだし、もう一つ腑に落ちないのは、世論が強く支持しているように見える「脱原発」から一番遠いところにあるはずの自民党が圧勝したという事実だ。「脱原発」というのはいわばタテマエで、現実の生活者としての選択はまた別だということなのだろうか。
 なお、同時に行われた都知事選で、石原さんの路線を継承する人が都知事になったのは残念なことだ。これまで東京都民がなぜ石原さんを支持して来たのか理解に苦しむところだったのだが、それが続いているというのは、依然として腑に落ちないことだ。
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 明けましておめでとうございます。このコラムを持たせて頂いて9年目の正月を迎えます。これからもよろしくお願い致します。(スペース・マガジン1月号所収)