テレビ・コマーシャル(スペース・マガジン2月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。
 

[愚想管見] テレビ・コマーシャル               西中眞二郎
 
 「お前の言うことはつまらん」というテレビ・コマーシャルで評判になった大滝秀治さんが亡くなった。大滝さんに限らず、有名なテレビ・コマーシャルも数多い。白い犬と樋口可南子さんたちの家族のコマーシャルもすっかり有名になり、それ自体が番組としての人気も獲得しているようだ。
 考えてみれば、コマーシャルというもの、テレビ番組の中で一番金を掛けているものなのかも知れない。わずか1分か2分の間に視聴者に強い印象を与えなければならないのだから、凡百の番組より時間当たりコストを掛けるのは当然のことだろう。それだけに、単なる広告・宣伝という以上に思わず見入ってしまうものも多い。
 もっとも、面白いと思って見ていても、それが何の宣伝だったか記憶に薄いものも少なくない。ビール、電気製品、自動車、保険など、多くのコマーシャルが林立している商品の場合、例えば「ビール」だという印象は残っても、それがどの会社の製品だったのかという印象が薄いと、コマーシャルは無意味なものになってしまう。その辺が製作者の腕の見せ所なのだろうが、効果満点とまでは行かないケースも多いのではないだろうか。
 以前ある住宅メーカーのコマーシャルに、こんなものがあった。サラリーマンが同僚に酒に誘われるが、断って家路につく→駅の改札口で定期券が見つからず難渋する→タッチの差でバスに乗り遅れる→夕焼け空の下を歩いて我が家に向かう・・・マイホームの魅力をとらえた余情のある良い印象のコマーシャルなのだとは思うが、意地悪を言えば、そのメーカーの家を買ったばかりに、同僚との付き合いもできないし、バスにも遅れてトボトボと家路を辿らざるを得ない・・・とも言えそうな話である。そのせいかどうか、最近そのコマーシャルにお目に掛らない。
 自動車保険のコマーシャルもある。風雨激しい深夜、女性が事故を起こし、保険会社に電話をかける→明るい日差しの中、レッカー車が来て車を運んでくれる・・・保険会社のサービスの良さを語っている積りなのだろうが、これまた意地悪を言えば、翌日の晴れた真昼間にならなければ来てくれないとも取れそうである。このコマーシャルもこのところあまり目にしなくなった。私のような意地悪から指摘があったのだろうか。
 
 コマーシャルに出演している有名俳優も多いが、コマーシャル以外ではほとんどお目に掛らない俳優も結構多い。新人の登竜門という面もあるのだろうが、コマーシャルの印象が先行し過ぎると、ドラマなどに出てもコマーシャル中の人物のような錯覚に陥ってしまうこともある。これはコマーシャルではないが、数年前の紅白歌合戦に水谷豊さんが登場して歌った際、連続ドラマで水谷さんが演じている刑事が歌を歌っているような錯覚に陥ったことがある。コマーシャルに限らず、ある役柄になり切って売れっ子になることとうらはらに、そのイメージから逃げられなくなってしまうことも、一つの問題点なのかも知れない。
 そんな愚にもつかない感想を抱きながら、コマーシャルを眺めているところである。(スペース・マガジン2月号所収)