題詠100首選歌集(その1)

 今年も題詠100首(五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の会)がはじまった。私も参加して9年目になるのだが、例年通り、私の投稿が済んだ題につき勝手な選歌を進め、終わったところで百人一首を作ることにしたいと思っている。全くの気まぐれで、何の権威もない無責任な選歌だが、私の遊び心に免じてお赦し頂きたいと思う。なお、対象が25首以上貯まった題から選歌し、それが10題貯まったら選歌集として掲載する方針なのだが、最初と最後はそれでは窮屈なので、例年その方針の例外扱いにしている。(題の後の数字は、主催者のブログにトラックバックの件数として表示されている数字なのだが、誤投稿や2重投稿もあるので、必ずしも正確な投稿数とは限らない。)


            選歌集・その1

001:新(〜53)
(藻上旅人)新しいはずの光が空を染め昨日と違う今日がはじまる
(砂乃)まだ慣れぬ新車の匂いにくるまれて会社へ向かう如月の朝
(希屋の浦)新しい希望を胸に吹き込んで目覚める朝はメヌエット弾く
(美亜)新しい虹のたもとを見つけたら君に手紙を書いてもいいか
(新井蜜)陰裏に場末の光 新しいものなどなくてぼくは疲れた
(湯山昌樹)新調のスーツ着てみた帰りには富士山染める茜の夕焼け ...
(蓮野 唯)新しい頁を埋めよう手のひらで温め続けるこのときめきで
(たえなかすず)サロン「Liz」の彼女は去りぬ新しい彼の話を三度ほどして ...
(原田 町)新生児イエスの足首おそるおそる父のヨセフは握りていたり(グレコ展)
(みずき)新しき恋の予感に触れしより涙腺ゆるぶ春の羞(やさ)しさ
(山本左足)やがて満ちまた欠けてゆく恋だろう上りはじめた新月を見る
(もなか)新しいノートを開く指先にあわい未来が舞いおりてくる
002:甘(〜40) 
(映子)別れ際甘いのほしいと云う母に持たせちゃいけない飴を持たせる
(有櫛由之)山鳩の骸いとしくつつみこむ昨夜(きぞ)からの霧雨の甘さよ
(こはぎ)甘いものばかり欲しがるスカートのひだにいくつも恋を忍ばせ
(砂乃)極甘の誉め言葉ばかりふりかける友情は少し腐り始める
(みずき)考への甘さ歯がゆさ術もなく咽ぶわたしへ春夜明けたる
(蓮野 唯)君だけを好きだと告げて反らす目を追った瞳に甘さが宿る
(詩月めぐ)溶けそうな甘い匂いの言葉たち話すあなたに酔いしれている
(原田 町)運命に甘噛みされているのかも過ぎ来しかたに大事なければ
003:各(〜30)
(はこべ)各自(それぞれ)の若芽が染めしみどりあり家庭菜園収穫を待つ
(ひろ子)ほんたうのさよなら言へず日の暮れて列島各地に春雷共鳴(なり)ぬ
(杜崎アオ)さとう漬けのすみれはそっと湯にひらき各各がその死をもてあそぶ
(神無曠太)しんしんと照明だけがざわめいて 何処にも行かぬ各駅停車
004:やがて(〜26)
(光本博)はやがてんしてしまひたる癖ありて「ぽつくり」は下駄といふを知らざり
(詩月めぐ)雷鳴が轟きやがて雪が降るひとりの夜はつんつん凍みる
005:叫(〜25)
(みずき)絶望を叫ぶいのちが彷徨ひて蹲りたる夜の流星
(はこべ)幼らはムンクの絵のごと叫びおる保育園の庭冬がおわりぬ