題詠100首選歌集(その2)

         選歌集・その2

001:新(54〜80)
(海)「大丈夫、新玉ねぎは甘いよ」と誘う笑顔に騙されてみる
(青野ことり)次々に荷物が運び入れられて新居の床は隠されてゆく
(鮎美)拉致問題語る新潟日報にくるまれ父の大根届く
今泉洋子)新しき春の香のする蕗の薹見つくる度にわらべがへりす
(粉粧楼)また羽根を折られるための夜と知る新雪を踏む音を待ちつつ
002:甘(41〜65)
(梅田啓子)甘かみをしたき耳たぶ見ていたり午前八時のあつき車内に
(船坂真桜)やさしさにささくれたまま触れぬよう爪の甘皮削っておりぬ
(矢野理々座)塩ふってスイカが甘くなるように彼氏をちょっと困らせてみる...
(鮎美)しめやかに甘露煮作るワンルーム我を連れ去る天馬あらずや
(もなか)秘めやかな甘さのかたちガラス瓶の氷砂糖はゆらり揺らめく
003各(31〜55)
(円)諦める儀式の開始 行先の「各駅停車」を「回送」とする
(鮎美)をとめごの頬のうぶ毛の陽に透けて各駅停車で春近づけり
(こすぎ)毎回の葬儀で裏方慣れをして知りたくもない各家の秘密
004:やがて(27〜52)
(コバライチ*キコ)繰り返し海の底より押し上がりやがて崩るる波濤の白さ
(原田 町)未勝利ならやがて屠殺もあると聞くサラブレッドがゲートに揃う
(湯山昌樹)富士山を赤く染めたる朝の陽はやがて山間(やまあい)の家並みに届く 005:叫(26〜50)
(コバライチ*キコ)叫べども闇に吸われし言霊の行方は何処海鳴り止まず
(鮎美)全身で叫びし最後はいつだらう湿れる砂をゆつくりと踏む
006:券(〜25)
(キョースケ)分け合った回数券はあと少し買い足していく恋のアイテム
(こはぎ)颯爽と定期券かざし群衆に溶ける わたしはおとなになった
(浅草大将)無人駅の運賃表に東京がかすれて券売機は売らぬ夢
(たえなかすず)捨ててゆく発券番号65 かがみこんだらそこに青空
(みずき)この券と恋の予兆を握りしめ改札とほる櫻降る午後
(希屋の浦)定期券もうすぐ卒業するんだね春色をした風に呟く
007:別(〜25)
(砂乃)送別会「またね」と言いし同僚の葬儀に「またね」が無いことを知る
(浅草大将)誰か言ふわかれどころと別所なる愛染かつら咲く湯の町を
(みずき)この駅で別れし人も涙さへセピアいろした過去の断面
(有櫛由之)ゆるやかな別れ道ならそれぞれに(種を蒔きたい何の種でも)
008:瞬(〜27)
(砂乃)男性が消えた瞬間口あける女子のおしゃべりアサリに似てる
(みずき)一瞬の動揺ののち浮かぶ笑み失意のなかの君は凛凛しい
(ことこ)一瞬のうちにミルクをこぼしてた運命だって交差していた
009:テーブル(〜29)
(砂乃)テーブルにおかれたままのオレンジの影がくずれて夜が始まる
(魚住蓮奈)交合の記憶をすんと吸う朝の食卓塩はテーブルにある
(光本博)通されし喫煙席のテーブルに灰皿あらず隣より取る
010:賞(〜28)
(みずき)賞状に偲ぶ夏の日激しくて遠き夕日へボール蹴りたる
(神無曠太)賞められたことのない子がついさっきまで漕いでいた砂のブランコ
(こすぎ)賞状が丸めて沢山しまわれて遺品という名で棄てられいく