題詠100首選歌集(その3)

            選歌集・その3

002:甘(66〜90)
(音波)待つことが間違いだったと知ったいまパックのいちごミルクが甘い
(横雲)添ひ臥して耳に残れる甘噛みの疼ける夜は眠らずにをり
(ふるはしゆみ)甘露飴ふくみて猫となりたる夜のぞきこむその黄金の闇
(諏訪淑美)糖質を制限しろと言われても脳が欲しがる甘いお汁粉
(紫苑)一羽二羽餌ひろふ鳥のかげのあり掘り返されし甘藷畑に
(莢)傷ついた兎でしょうかさっきまで真水は甘いと言っていたのは
(美穂)甘口の酒に溺れている君に月のあかりで舟を漕ぎ出す
003:各(56〜80)
(畠山拓郎)宍道湖を歩く弥生を想いけり各駅停車の車窓はのどか
(紫苑)秋闌けてなかば刈られし浅茅生の各務が原を照らす月影
(夏樹かのこ)(うたたねる)(各駅停車が揺れている)(海はひかっているのだろうか)
(諏訪淑美)それぞれに書きたる名前のそれぞれが各々の性(さが)語る楽しさ
005: 叫(51〜75)
(とおと)(泣き方は知らない)(器用な甘え方も)(ただ叫んでる) まひるまの月
006:券(26〜50)
(穂ノ木芽央)あなたへの回数券はあと何枚気まぐれに飾る花の一輪
(芳立)子ぎつねが白き毛糸の手ぶくろに拾ひし定期券のゆきさき
(詩月めぐ)秋色に染まるあなたを思い出す半券ぐしゃり潰す左手
007:別(51〜75)
(遥)別々の景色の中にいた人と同じ絵を描く夢を見ました
(コバライチ*キコ)「悲別」とふ架空の町の人びとを知っているやうな茜色の空
(湯山昌樹)「別にぃ」と子供が言えば人一倍それを気にしているという意味
(原田 町)別腹と言いつつマカロン頬張りぬ血糖値などしばし忘れて
(海)愛情を保つためには別居って理想的だと思う四年目
011:習(〜26)
(シュンイチ)習いたてのバイエルみたいにぎこちない二人の会話でうまる五線譜
(有櫛由之)白鷺のしき降る夕べ草笛を習わなかった吹きかたでふく
(翔子) 木造の演習教室今はなし日だまりだけに鉛筆の音
012:わずか(〜25)
(新井蜜)わづかな愛をささげたつもりになつていた 洗濯機には下着がまはる
(ことこ)軌道からわずかに逸れて得ることのない夜に得たかなしい言葉
013:極(〜25)
(さくら♪)極上の真綿のような君がいて一陣の風桜舞い散る
(みずき)極寒の水の匂ひの残る手はあの日触れゐし玻璃の氷紋
(はこべ)浄妙寺冬極まりて蹲の音澄み渡り鎮まりており
014:更(〜25)
(さくら♪)更紗着て赤い鼻緒の下駄鳴らし夏より早く君に会いたい
(砂乃)更新を忘れたblogの片隅に表示されてる楽天履歴
(はこべ)笛の音が低くしずかに透きとおり能『姨捨』は更科を舞う
015:吐(〜25)
(さくら♪)吐き出した弱音と涙許すごと君の蝋梅ひそりと咲きぬ
(光本博)見たことも触つたこともなきものの竜吐水とふ言葉のみ知る
(矢野理々座)「東京で良いことなんてなかった」と吐き捨て一人故郷へ帰る