題詠100首選歌集(その4)

 選歌集もやっとその4まで来たが、このところ選歌の在庫がさっぱり増えない。去年の実績を見たら、3月15日でその11まで来ている。沿道で叫んでみても詮無いことだが、ランナーの方々のご力走を期待したい。もっともまだまだスタートしたばかりの地点だから、これから大いにに期待できると思ってはいるのだが・・・。


          選歌集・その4

004: やがて(53〜77)
(松浦可音)転写する冬のひなたのぬくもりをやがて穢れる手足晒して
(諏訪淑美)この霙(みぞれ)やがては雪になるのかと窓透かし見る夜になりても
(美穂)その淡い恋の想い出胸に秘めやがてあなたも母親となる
006:券(51〜75)
(横雲)君のいる街への定期乗車券残る日数の虚しくなりぬ
(青野ことり)肩たたき券よりお話し券がいい くるくる動く瞳を覗く
(槐)二人ゐる写真と共に貼られたる晴れの日付の記念の半券
(蓮野 唯)記念にと優待券の半券を君の笑顔の隣に貼った
(とおと)うす紅のハズレ馬券を降らしめてぼくの天使は今日も不機嫌
008:瞬(28〜53)
(円)鍋の湯を落とす一瞬流し場はままごとに似た色に染まれり
(湯山昌樹)スマッシュにラケットはじかれ追い込まれ あの時終わった一瞬の夏
(松浦可音)あれは羽化したての白さゆっくりと瞬くうすき翅のまなざし
(詩月めぐ)僕だけのものじゃないけど見つめてるこの瞬間は僕だけのもの
(莢)瞬きのたびに光をとりこんで春の迷路を作ってしまう
009:テーブル(30〜55)
(原田 町)流し台ガステーブルなど磨きおり昨日も今日もそしていつまで
(紫苑)それぞれのテーブルにゐるふたりにて背(せな)にたがひの気配ききをり
(湯山昌樹)三人の家には広いテーブルで家族の増えるをひたすら待てり ...
(詩月めぐ)テーブルの下でつないだ君の手も内緒のキスも忘れてあげる
(コバライチ*キコ)抽斗にライトテーブル仕舞われて律儀な顔で出番待ちおり
(美穂)テーブルの私の場所にしみこんだ夢と涙と無数の傷あと
(椋)向かい合いカップを見つめる今はまだ テーブル分の貴方との距離
010:賞(29〜53)
(コバライチ*キコ)筒に入れ四半世紀を過ぎている着付け師範のわが賞状は
(こはぎ)芸術を鑑賞するかの眼差しで見つめる今日から半袖のきみ
016:仕事(〜26)
(キョースケ)街中で仕事探しに出かければ今日も世間の不景気を知る
(みずき)夕星(ゆふづつ)へ傾く夜の風景が仕事帰りの背なを圧しぬ
(砂乃)仕事上知りえた秘密にはいるのか社内恋愛略図の一部
(新井蜜)好きだつた仕事始めといふ言葉今年は俺にめぐつて来ない
(紫苑)笑みを売る仕事にあればうしろ手に戸を閉めるとき家を捨てをり
017:彼(〜25)
(映子)彼方より訪ね来る者愛おしくそばにありしは皆疎ましく
(みずき)彼と似し人夕闇に掻き消えて残り香のごと淡雪の降る
(円)誰そ彼という語を知ってからのこと君だと思う五時の夕闇
018:闘(〜25) 
(砂乃)この闘志無駄遣いすることはない 社内食堂Aランチ取る
(こすぎ)哀しみと闘うことをあきらめてブーツの先で小石蹴飛ばす
(新井蜜)闘ひを挑むあなたを受け流しあらしの気配する外に出る
(紫苑)闘ひに疲れしひとを抱きしむる腕もたざれば聖母にあらず
(矢野理々座)ひょっとして題詠blogは闘いか?お題と自分の単語力との
019:同じ(〜25)
(紫苑)どぶねずみ色といはるる制服にだれも同じとみゆる雑踏
(さわか)また同じ眠りのなかの春なればはしゃいだ夜もまた繰り返す
(円)弟と同じ顔した曾祖父は戦場に子を二人送れり
020:嘆(〜25)
(こはぎ)嘆くなら飛び立てばいい灰桃の春を切り裂き自転車を漕ぐ
(船坂真桜)この身には過ぎた願いであったなと詠嘆形で結ぶ片恋