題詠100首選歌集(その6)

         選歌集・その6

007:別(52〜76)
(船坂真桜)日常と袂を分かつ切り札とする別府行き往復切符
(諏訪淑美)別々の夢を抱いたその日から交わる未来は砕けたガラス
(桃子)別々の道を歩きだしたひと 菜の花畑で列車見送る
(梅田啓子)「いつ帰るの」会うや尋ねるおさなごは別れの意味をもう知っている
015:吐(26〜50)
(美穂)眠るのを嫌がる子には母親の吐息でくるんだ星を抱かせて
(原田 町)原発の吐きだしたもの封じこめ春うらうらと株価はあがる
(あわい)吐く息と夜風の温度が近づいて淡く輝く春の三日月
(たえなかすず)袖口にビル風通るヴェランダでmon amourなんて吐き出している
(桃子)佐保姫の吐息のような朧月 桜の土手を歩いて帰る
016:仕事(27〜51)
(コバライチ*キコ)木の股に枯れ枝集め巣を作る鳩の仕事を日がな見守る
(原田 町)ひさびさに針仕事せん絎台や箆はどこかに置いてあるはず
(湯山昌樹)担任を外れて二年 めっきりと減った深夜のワープロ仕事
026:期(〜25)
(みずき)思春期の少女に還る潮騒へ女屈みて描くさよなら
(砂乃) 期日前投票に行く本当の理由はぐっすり眠りたいだけ
(こはぎ)人生を賭けるくらいの意気込みで前髪を切る新学期前
027:コメント(〜25)
(藻上旅人)放置したブログに届いたコメントに忘れかけてた時をいただく
028:幾(〜25)
(シュンイチ)幾つかの出会いと幾つかの別れ重ね合わせてまた旅に出る
(有櫛由之)白骨の色のあかりが幾重にも降りしく夜にひとは黙する
(新井蜜)春の日のセールスマンと幾たびかダイキリを飲む真冬の街で
029:逃(〜25)
(浅草大将)シネマお茶そんな一線こゆるぎのいっそ小田急で逃げむとぞ思ふ
(紫苑)逃げ水に誘はるるがに思ひ出づ背(せな)をおくりし夏の日の恋
(船坂真桜)春という魔女から逃れ購いし稚内行き片道切符
(コバライチ*キコ)縄張りを荒らされ逃げる魚(うを)たちの弾ける花火のやうな素早さ
030:財(〜25)
(みずき)財布より巾着といふ象して夢と優しさまあるく入れぬ
031:はずれ(〜25)
(みずき)たまさかに季節はづれを降る雪の音無き間(あひ)を櫻(はな)の散りたる
(莢)薄く水のはられた空がひそやかに冬のはずれで祝われている
(矢野理々座)空くじはなしと言うけど7等のポケットティッシュはやっぱりはずれ
039:銃(〜25)
(みずき)銃口へ瞳みひらく絵模様の小寒き春がけふを彩る
(遥)一瞬でタイムスリップその女性(ひと)は銃後の苦悩つぶさに語る
(紫苑)愛用のライカは銃(つつ)であつたらういくさを追うて散りにしキヤパの
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