題詠100首選歌集(その8)

          選歌集・その8

002:甘(91〜115)
(五十嵐きよみ)人生は甘くないけど素晴らしいヘルマン・プライフィガロを歌う
兵站戦線)筍の甘き感触しゃくしゃくと少年の日々呑みくだしたり
佐藤紀子)小さくも甘きみかんのひと袋宇佐駅前の八百屋に買ひぬ
(珠弾)並盛りのカレー(甘口)花らっきょう午後の予定はなきにひとしい
003:各(91〜115)
(美穂)各階の華やぎだけを吸い込んでデパ地下通路より脱出す
(理宇)現実と理想が鞄に入らずに各駅停車をひとつ見送る
佐藤紀子)各々が秘蔵の雛を店先に飾りて街に春のはなやぎ
008:瞬(54〜78)
(梅田啓子)飴色のアイスマンよりしずく垂れ一瞬に五千三百年を超ゆ
佐藤紀子)一瞬をきらめくものの残像を瞼に残し流れ星消ゆ
(廣珍堂)瞬きを ゆつくりとする 君のゐて フレアスカートは 春風のごと
010: 賞(54〜78)
(とおと)賞めらるる筋合などなく春宵の柔き梢に五位眠りをり
(梅田啓子)賞状を手渡しながらわれを見し春日真木子のまなざし忘れず
(鳥羽省三)精勤賞だけは貰へた弟の少し淋しき少年時代
佐藤紀子)大臣賞の立て札のあるしだれ梅紅鮮やかな花をひらきぬ
022:梨(26〜50)
(美穂)梨見ればつわりの記憶よみがえる子は二人とも五月の生まれ
(海)ずんぐりとした体型も「用無し」の響きもあたしっぽいぞ 洋梨
(あわい)梨の実を剥く手応えを待ちわびて咲き出す花を愛でる春の日
(ことこ)ようやっとみつけた梨に齧りつくみずうみよりもあわい潮風
023:不思議(26〜50)
兵站戦線)この春も色々あつて元気だと言へる不思議を噛みしめてゐる
(はぜ子)女生徒の恋のおわりの啜り泣きまたひとつ七不思議を増やす
佐藤紀子)海の下の関門トンネル歩きつつ不思議なほどに早足になる
(湯山昌樹)子供なる不思議なものに魅せられて教壇に立ち早二十五年 ...
(夏樹かのこ)はじめての不思議ばかりを見つめてたきみの背中で地球が回る
035:後悔(〜25)
(こすぎ)今もまだ後悔しつつ生きている亡くした人の笑顔のために
036:少(〜25)
(砂乃)少なめの誉め言葉部下にまぶしてはタバコがひと箱ふた箱消える
(有櫛由之)山姥のかたりはやまず夕づつのあかりも少しすぎたる夜寒
037:恨(〜25)
(西村湯呑)「恨めしや おもてうどん屋 かどパン屋」教えてくれたばあちゃんの霊
(映子)恨まれてみたい気もするいつまでもいい人だけじゃオモシロクナイ
(はこべ)恨んだり恨まれたりの時ありき今は懐かしキャンパスライフ
(有櫛由之)春蝶の蛹を背負うとが人のなにも恨まぬ蒼き眸は澄む
038:イエス(〜25)
(映子)好きだけど応えられないときもあるイエスとノーを一緒にあげる
(さわか)イエスって知らんぷりして応えたら傘が吹っ飛ぶ夢の真ん中
(たえなかすず)ぼんやりと泣いていたのね直感とイエスタデイが低くながれる
(芳立)月かげに追ひつめられた壁際でイエスかノーか決めかねるふり