維新の会の憲法観(スペース・マガジン5月号)

 例によってスペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。

       
 [愚想管見]   維新の会の憲法観       西中眞二郎

 
「日本を孤立と軽蔑の対象に貶(おとし)め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正し、国家、民族を真の自立に導き、国家を蘇生させる」――――ぎょっとするような表現であり、私の目からみれば書き写すだけでもおぞましいような文章である。極右の団体や個人の文章ならまだしも、これが先般公表された「日本維新の会綱領」の一部だから驚く。私自身は憲法改正には反対だが、憲法も「不磨の大典」ではなく、憲法改正に関してのさまざまな議論を否定する積りはない。しかし、それにしてもこれはひど過ぎる。
 言うまでもなく、憲法は国の基本となるものである。賛否いずれにせよ、国の根幹をなす憲法に対する「敬意」を忘れ、「元凶」とか「占領憲法」とか決めつける論法は、天下の公党の綱領とも思えない。「愛国心」や「国旗・国歌」を尊重する政党やそれに所属する人々が、戦後60年以上にわたる我が国の歴史を否定し、これを支えて来た憲法をないがしろにすることは、彼らの最も忌み嫌うはずの「自虐史観」そのものであり、まともに取り上げるにも値しない考え方だとすら思う。
 個別の論点を取り上げて議論するにも値しないものだとは思うが、「日本を孤立と軽蔑の対象に貶め」というのは、一体何のことを指しているのだろう。私の承知している限りでは、我が国は国際的に決して孤立はしていないし、軽蔑の対象になっているとも思わない。むしろ、我が国平和憲法は、多くの国々や人々からそれなりの評価を受けていると私は思っている。維新の会の共同代表である石原慎太郎氏は軍事力の重要性を説いているようだが、我が国が憲法を改正して「軍事国家」になったとしても、北朝鮮、中国その他の近隣諸国との間の問題が解決するとは思われず、かえって摩擦を増して、危ない綱渡りを強いられることになる公算が大きいような気がする。ましてや、このような発想で憲法を改正し、そのような感覚で政治・外交が行われた場合、我が国に対する国際的な信用度は低下し、かえって我が国にとって好ましくない結果を招く公算が大きいと思う。
 自民党憲法改正論は、まさかこれほど幼稚で危険な発想から生まれたものではないとは思うが、安倍政権の動き等を見ているとかなり共通な発想があるようにも思われる。憲法改正の是非についてはさまざまな見解があるところだろうが、少なくともこのような発想からの憲法改正は、絶対に阻止すべきものだと思う。憲法を守ろうという考え方自身が、「絶対平和という非現実的な共同幻想」の産物だと言われてしまえばそれまでだが、戦後の荒廃の中から立ち直って現在に至っている我が国の存在の根幹を否定するような憲法観を決して是認することはできない。
 なお、当面の動きとしては、憲法改正要件の緩和を先行させるという動きもあるようだ。そのこと自体の是非は別として、維新の会のような感覚での憲法改正につなげるための要件緩和なら、本体の憲法改正と同様あるいはそれ以上の危険性を孕むものであり、これまた是認できないものだと思う。(スペース・マガジン5月号所収)